前払金の勘定科目は何?仕訳例や前払費用などとの使い分けを解説

企業活動において、商品代金の一部を前払いしたり、サービスの対価を事前に支払ったりする「前払金」は、頻繁に発生します。しかし、前払金について、適切な勘定科目の選択や具体的な仕訳方法に戸惑う方も、少なくないでしょう。

本記事では、前払金の基本的な定義、具体的な仕訳例について解説します。前払金に関する会計処理の理解を深め、日々の業務をより円滑に進めるために、ぜひ最後までお読みください。

前払金とは?

前払金とは、商品を購入したりサービスの提供を受けたりする際に、対価として事前に支払う金銭を指します。前払金の支払いは、将来的に商品やサービスを受け取る権利を得るためのものであり、会計処理においては企業の資産として扱われるのが一般的です。

具体的には、貸借対照表の流動資産の部に計上し、1年以内に費用化されるか、実際の物品や役務に変わる性質をもちます。

前払金を支払った際には「前払金」または「前渡金」という勘定科目を用い、逆に前払金を受け取った場合は「前受金」という負債の勘定科目を使用します。適切な勘定科目で会計処理を行いましょう。

前払金の仕訳方法と具体例

前払金の会計処理では、取引の状況に応じた適切な仕訳が重要です。ここからは、実務でよく見られる4つの事例を基に、仕訳方法を詳しく見ていきましょう。

商品を仕入れ、商品代の一部を前払いした場合

商品を仕入れる際、契約の証として代金の一部を前もって支払う場合は「前払金」の勘定科目で会計処理を行います。商品を受け取った時点で、前払金を仕入高の勘定科目に振り替え、費用として計上します。

総額30万円の商品を仕入れる契約を結び、前払金として6万円を現金で支払った場合の仕訳は以下のとおりです。

借方貸方
前払金60,000円現金60,000円

商品が納品された際に、仕入高と前払金の仕訳を行います。

借方貸方
仕入高300,000円前払金60,000円
買掛金240,000円

残りの代金24万円を振込で支払った場合、仕訳は以下のとおりです。

借方貸方
買掛金240,000円普通預金240,000円

事業用の車を購入し、頭金を支払った場合

事業活動に使用する車両などの固定資産を購入する際、契約時に支払う頭金も「前払金」として会計処理を行います。

たとえば、営業用として500万円の自動車を購入する契約をして、頭金として100万円を普通預金から支払ったとします。

借方貸方
前払金1,000,000円普通預金1,000,000円

車両が納車され、残りの代金を支払う際に、前払金を車両運搬具勘定へ振り替える会計処理を行いましょう。

借方貸方
車両運搬具5,000,000円前払金1,000,000円
未払金4,000,000円

ホテルや宿泊施設の予約料金を支払った場合

従業員の出張や研修などでホテルや宿泊施設を利用する際、事前に予約金や手付金を支払う場合があります。予約金も「前払金」として会計処理するのが一般的です。

従業員の出張のために宿泊施設を予約し、予約金として2万円を振込で支払った場合の仕訳は、以下のとおりです。

借方貸方
前払金20,000円普通預金20,000円

後日、従業員が出張から戻り経費精算を行う際に、旅費交通費として計上します。

借方貸方
旅費交通費20,000円前払金20,000円

商品を販売し、前払金を受け取った場合

商品を販売する側として、顧客から商品代金の一部またはすべてを前払いで受け取る場合、受け取った金銭は「前受金」という勘定科目で会計処理します。

顧客から100万円の製品の注文を受け、前払金として20万円を普通預金に受け入れた際の仕訳は以下のとおりです。

借方貸方
普通預金200,000円前受金200,000円

製品を引き渡した時点で、以下の仕訳に振り替えます。

借方貸方
前受金200,000円売上高1,000,000円
売掛金800,000円

残りの代金が支払われた際の仕訳は、以下のとおりです。

借方貸方
普通預金800,000円売掛金800,000円

前払費用との違い

前払費用とは、継続的にサービスの提供を受ける契約に基づき、まだ提供されていないサービスに対して事前に支払う費用を指します。前払費用に該当する支払いは、以下のとおりです。

  • 年間契約の火災保険料や自動車保険料
  • サーバーやソフトウェアの年間利用料
  • 新聞や雑誌の年間購読料

前払費用に対して前払金は、将来受け取る商品や単発のサービスのために支払う金銭です。前払金に該当する支払いは、以下のとおりです。

  • 機械装置などの購入時に支払う頭金
  • 出張時のホテル予約金や航空券代
  • コンサルティング契約の着手金

前払費用と前払金は、サービスの継続性の有無という点が異なります。会計処理においても、前払費用は時間の経過に応じて費用として配分されるのに対し、前払金は商品やサービスを受け取る権利として資産計上されます。

前払費用に該当する可能性のある支払いについては、以下の記事もご参照ください。

関連記事:会費の勘定科目は?入会費や年会費などの仕訳例と消費税の扱い方

関連記事:保証料(信用保証料や賃貸保証料)の勘定科目は?仕訳例と借入時の経理処理

関連記事:地代家賃とはどんな勘定科目?仕訳例や計上できない費用の例もわかりやすく解説

長期前払費用とは

長期前払費用とは、年度の途中で1年以上にわたる契約に基づいて支払う費用のうち、1年を超える部分のことです。

たとえば、火災保険や自動車保険では複数年分の保険料を一括で支払う場合があります。この際、1年を超える分は長期前払費用として会計処理しなければなりません。

法人税法の規定により、法人の場合は繰延資産が長期前払費用として扱われることもあります。法人税法においては、繰延資産の範囲が比較的広く設定されており、長期前払費用として処理すれば、適切なタイミングで費用を計上できます。

短期前払費用とは

短期前払費用とは、支払日から1年以内にサービスの提供を受ける前払費用のことです。短期前払費用は、一定の要件を満たす場合に限り特例が認められています。

特例を適用するには「契約に基づき継続的に等質等量のサービスを受ける」「支払った事業年度中にサービスの提供が開始される」などの条件を満たす必要があります。

ただし、金融機関からの借入金の支払利息のような、収益と対応させるべき費用は対象外となるため注意が必要です。

短期前払費用の特例制度を活用すると、企業は費用を早期に計上できるため、法人税や所得税の負担を軽減できる可能性があるでしょう。

参考:国税庁「短期前払費用の取扱いについて

前払費用の仕訳方法と具体例

前払費用は、複数期間にわたる契約に基づいて支払う費用が該当し、時間の経過に応じて費用化していく考え方が基本です。ここからは、前払費用の基本的な仕訳の流れや計上タイミング、具体的な処理の例を解説します。

仕訳の流れと計上タイミング

前払費用の会計処理における仕訳は、以下の3つのタイミングで計上します。

  • 支払時
  • 決算時
  • 翌期首

会計処理のタイミングを分けるのは、費用収益対応の原則に基づいているためです。「当期の費用として認識すべき金額」と「翌期以降に費用化すべき金額」を正確に区分する目的があります。

たとえば1年分のサービス料を前払いした場合、支払時に全額を費用または資産で計上します。決算時は未経過分を「前払費用」(資産)へ振り替え、翌期首に当期の費用へ戻す再振替仕訳を行いましょう。

それぞれのタイミングで会計処理することで、各期間の費用が適切に配分されます。

ただし、支払日から1年以内にサービス提供を受け、毎期継続処理するなどの要件下では、重要性の原則により支払時に全額損金算入できる「短期前払費用の特例」が認められます。

参考:国税庁「第2款 販売費及び一般管理費等

仕訳例

以下の条件を例として、前払費用の仕訳を詳しく見ていきましょう。

  • 決算期が3月である
  • 2年契約の火災保険の保険料210,000円を9月に支払った

保険期間2年の場合

保険期間が2年の場合、当期分とそれ以降の保険料を分けて計上します。また、短期前払費用と長期前払費用の振り分けも必要です。具体的な仕訳の例は以下のとおりです。

借方貸方
保険料52,500円現預金210,000円
短期前払費用105,000円
長期前払費用52,500円

保険期間18カ月の場合

保険期間が18カ月の場合も、当期分とそれ以降の保険料を分けて計上します。当期以降の期間は1年以内であるため、短期前払費用のみで計上できます。具体的な仕訳は以下のとおりです。

借方貸方
保険料70,000円現預金210,000円
短期前払費用140,000円

前払費用に関わる消費税について

前払費用に関わる消費税の仕訳についても解説します。ここでは、支払時の条件を以下のとおりとします。

  • 決算期が3月
  • 2年契約のサブスクリプションサービスの料金198,000円を3月に支払った
  • 税抜方式

料金198,000円に消費税が含まれており、消費税は18,000円です。まずは当期分の仮払消費税のみ計上し、翌期以降で随時計上していく必要があります。具体的な仕訳は、以下のとおりです。

借方貸方
通信費7,500円現預金198,000円
仮払消費税750円
短期前払費用99,000円
長期前払費用90,750円

その他の混同しやすい勘定科目との違い

会計処理をする上で、前払金と混同しやすい勘定科目がいくつか存在します。ここからは、前払金と混同しやすい4つの勘定科目について、それぞれの特徴と前払金との違いを詳しく解説します。

仮払金

仮払金は、支出する金額や内容が未確定のため、概算で金銭を支払った際に用いる勘定科目です。対して前払金は、購入する商品や提供を受けるサービスの内容、対価が明確な状況で支払われる点で異なります。

たとえば、従業員の出張に際し、旅費交通費の概算額を事前に渡すケースです。前渡資金の仕訳には仮払金を用い、後日精算して正しい費用勘定へ振り替えましょう。

仮払金は、支出の内容が確定次第、速やかに適切な勘定科目に振り替える精算処理をするのが肝要です。支出の目的や金額の確定度合いによって、仮払金と前払金を明確に使い分けましょう。

仮払金については、以下の記事もごご覧ください。

関連記事:勘定科目「仮払金」とは?立替金や前払金との違い、仕訳例などを解説

貸付金

貸付金とは、企業が取引先や関連会社、従業員などに対して金銭を貸し付けた場合に用いる勘定科目です。貸付金は将来的に元本の返済と利息の受け取りを目的とする金銭債権であり、資産として計上します。

前払金が商品購入やサービスを受けるための「対価の前払い」であるのに対し、貸付金は「資金の融通」が目的である点が異なります。

たとえば、運転資金が不足している取引先に資金を融資する場合は、貸付金として処理を行い、貸付契約の際には、返済期間や利率などを明確にした契約書を取り交わすのが一般的です。

建設仮勘定

建設仮勘定は、自社で使用する建物や機械装置といった有形固定資産を建設・製作している際に用いる勘定科目を指します。建設仮勘定は、完成までに長期間を要する固定資産の取得原価を正確に把握する目的で使用されるものです。

たとえば、工場を新設する際に支払った設計料や建設業者への工事中間金は、建設仮勘定に計上し、工場完成時に建物勘定へ振り替えます。建設期間中に発生した借入金の利息なども、建設仮勘定に含められます。

一方、事務所の賃料を前払いするような場合の勘定科目は前払金です。

参考:国税庁「No.6483 建設仮勘定の仕入税額控除の時期

支払手付金

支払手付金は、不動産の売買契約や請負契約などを締結する際に、契約の履行を確保する目的で相手方に支払う金銭です。手付金は、契約が成立した証となったり、解約時の違約金に充当されたりする性質をもちます。

前払金も代金の前払いという側面がありますが、支払手付金は契約の担保という意味合いが強い場合に区別して用いられます。

ただし、最終的に購入代金の一部に充当される場合は、実質的に前払金と同様の性格をもつため、会計実務上は前払金として処理される場合も少なくありません。

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前払金は、特定の商品購入や一度きりのサービスを受ける権利として、支払時に「前払金」の勘定科目で処理します。

一方、前払費用は保険料などの継続的なサービスへの対価のうち、まだ提供されていない未経過分を指し、支払時や決算時に、適切に期間按分して費用として計上する会計処理が必要です。

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