受発注プラットフォーム「CADDi(キャディ)」を通じ、製造業のDXを推し進めているキャディ株式会社。2030年までに1兆円規模のグローバルプラットフォームを目指し、2021年8月にはシリーズBで総額80.3億円の資金調達を実施しています。
同社の経理管理本部では、メーカや町工場から送られてくる請求書を紙で処理していたため、入力作業や仕訳に課題感を感じ、バクラク請求書の導入を決定しました。バクラク請求書の導入までの流れ、そして導入の成果について、監査法人で勤務経験があり公認会計士でもある、経理管理本部の伊藤達也さんにお話を伺いました。
伊藤達也
経理管理本部・公認会計士
ー キャディ社の経理業務の特徴とミッションをお聞かせください。
伊藤:経費精算やお客様への請求といった一般的な経理業務のほか、納品書の発行や検収書のチェックなど、いわゆるモノづくりに関わるバックオフィス業務も担当していることが特徴です。
経理管理本部のミッションは大きく2つ。1つは「屋台骨」ともいえる会社のインフラ部門として、会計処理を正しく実行し、正しく記録していくことです。
2つ目は、経理に集約された情報を経営陣が分析しやすいような形に整え、スピーディに届けること。この点は弊社にとって特に重要だと思います。なぜなら、ビジネスモデルが複雑、かつモノがよく動くビジネスであるため、モノを動かすために必要な人件費や物流コストが他社と比べても大きいからです。業績を改善していくための分析に必要な数値が経理に集まりやすく、経営的な観点からもバックオフィスの重要性が高いと考えています。
また、弊社には他部署のコンテキストも皆が把握し、皆で経営していこう、というカルチャーが醸成されていることも背景の1つです。経理にも「どうしたら事業に貢献できるのか」というミッションへのアクションを常に求められています。
ー キャディ社で扱う請求書の枚数と特徴を教えてください。
伊藤:現在、お取引させていただいている町工場さんの数は月で数百社でして、請求書は毎月数百枚ほどを処理しています。おかげさまで事業が伸びていることもあり、請求書の枚数がかなりの勢いで伸びております。2021年の春頃と比べて、すでに2倍以上の請求書数になっています。。
町工場さんからいただく請求書は、手書きであったり、明細が細かく書かれていたりと、注意深く確認し、計算する必要があることが特徴です。また、決済手段が月末払いではなく、紙の手形で行われることもあるのは製造業ならではの文化だと感じています。
ー 請求書はどのような業務フローで処理されているのでしょうか。
伊藤:請求書が送付されてくるルートは、郵送、FAX、メールの大きく3つです。請求書の約70%が郵送で、残りの30%がFAXやメールで届きます。弊社はいくつかの拠点に分かれているため、各拠点に届いた請求書は取りまとめられた後に本社に送付され、また、メールで届いた請求書はすべて印刷されます。なお、データ保存のためのPDF化はしていませんでした。
すべての請求書が取りまとめられた後に、経理が目視で確認し、手入力でまとめて記帳していました。また、手形や「でんさい(電子記録債権)」は通常の請求書と分けて支払情報を作成、処理されるため、より工数が掛かっていたのです。
ー バクラク請求書導入以前の課題について教えてください。
伊藤:請求書の枚数が月を追うごとに増えていたため、限られた人数しかいない経理担当では、処理に掛かる時間が伸び続けていました。支払いのデータ作成まで含めると、月間30〜40時間は掛かっていたと思います。
処理に時間がかかることで、経理担当の負担も懸念点でした。請求書の入力、登録は基本的に単純作業です。経理担当の社員には、その人にしかできない改善業務や、新規取引先の口座情報の登録などの業務にフォーカスしてほしいという思いがある一方、振り込み業務はミスが許されない業務であるため、社員自らが担当しなければならないというジレンマがありました。
結局、月末月初の忙しい期間は10営業日も残業せざるをえないこともありました。また、「経営陣に経理情報をスピーディに届ける」という私たちのミッションもこなせずにいたのです。
ー 社内の他部署からはどのような要望があったのでしょうか。
伊藤:2021年夏には、シリーズBで大型の資金調達をさせていただいた背景もあり、よりスピーディな記帳体制、会計記録体制を経理陣から求められました。「どうやったら早く月次決算を締めることができるか」というテーマが直近のOKRにもなっているくらいです。
ーバクラク請求書をお知りになったきっかけを教えてください。
伊藤:経理の課題を解決するため、請求書処理を自動化するツールの導入を検討する中で、他社サービスとバクラク請求書を知りました。そこから、ツールの比較検討とトライアルを実施することとなりました。
ー比較検討の軸について教えてください。
伊藤:価格、使いやすさ、将来性の3つで評価をしております。
価格面は最終的な決め手にこそなりませんでしたが、取り組みしやすい価格形態であったことが高評価です。
一般的なSaaSでは、ユーザー数や対象帳票の枚数に応じて課金される価格形態がほとんど。ですがバクラク請求書は、月額固定でご提供していただいておりますので、将来的に経理社員や請求書枚数が大幅に増えていく弊社にとっては、非常にコストパフォーマンスが高くなっており、経営陣からの稟議承認を取りやすかったです。
使いやすさについては、現場担当者から特にポイントが高い要素です。
トライアルで複数サービスを実際に触ってみたのですが、一つひとつのボタンの場所や色、画面のレイアウトなど、流れるような動線で経理業務が行えるように研究されているなと感じました。
トライアルでは経理経験がまったくない社員がシステムを触る機会もあったのですが、まったく迷わずに操作できていたことには驚きましたね。ただシンプルなデザインであるだけでなく、しっかり必要な要件を満たしたUIに惹かれました。
そして最終的に導入の決め手になった要素は将来性です。
SaaSはこれからもずっと使い続けていくことになるサービスですので、将来どのように機能が改善されていくか、どの程度のスピード感で改善されていくか、といった要素は特に重要だと思います。
そう言った意味で、エンジニアをはじめ人材の優秀さは他社と比べても、LayerX社は一段飛び抜けていると思います。将来性を考慮し、最終的にバクラク請求書を導入することとなりました。
伊藤:一つひとつの経理業務でどのくらいの時間が掛かっており、導入によってどの程度効率化できるか、その差分を概算しました。また、事業の拡大とIPOの可能性も考慮して、監査コストの削減も説明しました。すべての仕訳に関するPDFデータがあると、監査法人対応の工数がとても下がるのです。
ー バクラク請求書の導入には、どのくらいの期間が掛かりましたか。
伊藤:おおよそ2, 3カ月掛かりました。弊社の場合は、取引先の登録数が多かったので設定に時間が掛かっています。
導入にあたっては、LayerX社の営業の方に熱心にサポートいただきました。経理のことをよく理解されており、定期的なミーティングでは細かい設定までもサポートいただけたので、しっかりと使いこなせるようになりました。
ー バクラク請求書の導入後、業務フローはどのように変化しましたか。
伊藤:請求書の回収方法が大きく変わりました。郵送で届いた請求書はスタッフが複合機ですべてPDF化し、自動で経理用のメールアドレスに転送される設定にしています。
また、各事業部がメールやFAXで回収した請求書は、バクラク請求書で発行されるURL経由で各事業部がアップロードしています。その手順やURLは専用のSlackチャンネルにまとめていますので、新入社員でもすぐ理解することができます。
ー 社内にバクラク請求書の導入を浸透させるために、どのような工夫をしましたか。
伊藤:各部署のキーマンをちゃんと押さえることがとても重要です。まずはキーマンにしっかり導入の意図や操作方法を覚えてもらいます。
そのキーマンの姿を周りの社員が見て学べば、効率的に浸透させることができるはずです。全社周知はしつつも、しっかり社内でコアユーザーを育てることが、SaaSの上手なオンボーディングになると考えています。
ー バクラク請求書で気に入っている機能があればお聞かせください。
伊藤:一度でも仕訳した項目は学習機能で記憶され、リコメンド形式で提案してくれます。このおかげで、一度も経理業務をしたことがない社員が担当しても、日付と金額、内容変更だけチェックすれば、以前と全く同じデータ登録が可能になります。
最近も請求書処理のリソースが足りないという危機的な状況になったこともあったのですが、経理未経験の事務担当でも問題なく仕訳から支払い処理までできたため、バクラク請求書には助けられたなと感じています。
ー バクラク請求書導入後の成果をお聞かせください。
伊藤:経理担当者の請求書処理に掛かる時間が、以前は月間30〜40時間掛かっていたところ、現在は3〜4時間まで圧縮できています。浮いた時間は、新規プロジェクトや事業拡大のための整備、そして新規顧客とのお取引に関する業務に充てています。
ツールで経理業務を平準化させ、脱属人化を進めたことで1人に請求書業務が集中する状態から脱し、残業を減らすことにも成功しました。また、経理経験のない方でも処理できる体制になったことで、将来的に請求書が増えていったとしてもリソース内で十分対応することが可能になっています。
ー 実際に請求書処理を行う社員からはどのようなご感想がありましたか。
伊藤:「非常に使いやすい」という言葉を聞いています。
日付の選択ミスや口座番号の入力ミスは、人が処理する以上どうしても発生してしまっていたのですが、口座情報はOCRが読み取ってくれますし、日付の入力は「当月末/翌月末」といった直感的な選択で入力できるため、担当者は確認作業に時間を割けるようになりました。結果、現場のミスは格段に減っています。
ー 他部署からの反応はいかがですか?
伊藤:「あの支払い、どうなった?」「あの請求書を送ってください」といった社長室や他部署からの依頼にすぐ応えられるようになったことが高評価です。
今までは紙での処理だったため、オフィスにいないと確認できず、わざわざPDF化する手間もありました。これは「経理の情報を経営陣へスピーディに届ける」というミッションに大きく貢献していると思います。
ー 今後の展望をお聞かせください。
伊藤:多くの企業では、稟議と会計のシステムは分断されている状況が往々にして見られます。稟議と予算が紐づいておらず、予算は取ったものの消化進捗が分からないといった問題は起きがちです。
こういった問題が起きないためにも、予算、稟議、会計といったバックオフィスのアクション一つひとつが全部つながっていく状態を実現することはとても大事だと思っています。この状態が実現すれば、経営陣へ届ける情報はより正確になりますし、内部統制も効いてくるでしょう。
ー バクラク請求書には、どのような役割を期待されていますか?
伊藤:弊社が向き合っている製造業は、いわゆるレガシー産業です。紙の手形のような古いシステムが未だに残っており、生産性が向上しないという課題を抱えている企業も多く存在します。
「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」という弊社ミッションもありますが、バクラク請求書がバックオフィスのポテンシャルを解放していく存在になることに期待したいですね。
ー この記事を読まれている経理担当の方へアドバイスをお願いいたします。
伊藤:バクラク請求書は複雑な会計システムと違い、「請求書を読み取ってデータ化する」という、割とシンプルなシステムです。
ですので、会社のバックオフィスをデジタル化する第一歩としては、非常に踏み出しやすいツールなのではないでしょうか。バクラク請求書の導入をきっかけに、経理管理体制の強化に取り組まれる企業が増えてくると嬉しいなと思います。