インボイス制度のメリット/デメリットや「誰が得する?」といった意義を解説
- 記事公開日:
- 最終更新日:2024-10-11
2023年10月からインボイス(適格請求書)制度が始まりました。インボイス制度の目的と導入の理由を知ることで、事業者として前向きにインボイスへの対応を進めやすくなります。
本記事では、インボイス制度のメリットに焦点を当て、デメリットや批判される理由、対応に向けた準備方法などのポイントを含めて解説します。ぜひ参考にしてください。
インボイス制度のメリット/デメリットや「誰が得する?」といった意義を解説
インボイス制度のメリットとは
インボイス制度のメリットにはどのようなものがあるか、3つのポイントから解説します。
企業が消費税を正確に計算しやすくなる
第一のメリットは、企業が消費税を正確に算出しやすい点です。
インボイス制度が導入されるまでは、消費税率が混在していたため、企業は確定申告や仕入税額控除を進める際に改めて計算を迫られていました。
適格請求書に切り替わってからは、8%と10%それぞれの消費税率ごとの消費税額、および商品ごとの消費税率が明記されているため、これまで以上に正確な消費税額の計算が可能になりました。
消費税額を正確に把握できれば、申告や控除の手続きもより適切に進められるようになるでしょう。
課税事業者の取引継続と新規開拓がしやすくなる
第2のメリットは、インボイス制度に対応することで、取引先の課税事業者が仕入税額控除を利用できるようになり、取引が有利になる点です。
インボイス制度に対応していないと、課税事業者である取引先に対して適格請求書を発行できません。取引先は仕入税額控除を受けられず、損失を被ることになるため、制度に対応しないと取引を縮小、あるいは中断されるリスクがあります。
適格請求書を発行できるようになれば、課税事業者との取引継続や、新規取引の開拓にも有利に働くと期待されます。
企業取引の透明性向上で税務リスクが低くなる
インボイス制度では適格請求書の発行や保存が求められるようになりました。取引内容や取引金額の詳細の確認がしやすくなったことで企業取引の透明性が向上し、税務上のリスクが低くなります。
その際、電子インボイスを導入することで、作成から送付までの業務がオンラインで完結し、コスト削減を図れます。請求書の発行枚数が多いほど、削減できるコストは大きな金額になります。
電子インボイスであれば送付の履歴が残るため、いつどこへ送付したかの確認が容易になるうえ、情報漏洩のリスクも軽減できます。さらに、過去に発行した請求書の枚数が多くても検索しやすく、紛失のリスクも少なくなります。請求書とその取扱いにかかわる業務上のやり取りが常に追跡可能な状態であれば、取引の透明性が担保しやすくなります。
さらに、送付や再発行の手間がないため、スムーズに請求業務を進められます。また、オフィス以外の場所からでも請求業務に対応可能です。
また、電子文書をネットワーク上でやり取りする際の国際規格である「Peppol」を採用することで、海外取引にもスムーズに対応できるようになる点も見逃せません。
インボイス制度のデメリットとは
インボイス制度が導入されたことで生じるデメリットを、3つのポイントから解説します。
課税事業者になれば消費税の納付義務が発生する
免税事業者である企業や個人事業主がインボイス制度に対応するためには、課税事業者に切り替える必要がある一方で、消費税の納税額の増加は避けられません。
インボイス制度で適格請求書を発行できるのは、所轄の税務署に課税事業者として登録された企業や個人事業主のみです。免税事業者が課税事業者に切り替えることで、これまで免除されていた消費税の納税義務が発生し、納税負担が増加することになります。
免税事業者にとっては取引中止や報酬減額のリスクがある
課税事業者が免税事業者から仕入れをする場合、インボイス制度導入後は仕入税額控除が減少する可能性があります。
インボイス制度では、適格請求書がなければ仕入税額控除が認められません。免税事業者は適格請求書が発行できないため、買い手である課税業者は仕入税額控除が受けられず、負担する消費税納税額が増えることになります。
そのため、免税事業者は、課税業者からの取引中止や報酬減額といったリスクへの覚悟が必要です。
経理担当者の事務負担が増える
インボイス制度への対応により経理業務が複雑となり、経理担当者の事務負担が増えます。請求書だけでなく領収書やレシート、納品書、仕入れ明細書など、取引の証明になる書類すべてが対象となるからです。
適格請求書は従来よりも記載項目が増える上、一定期間の保存が求められる、消費税の計算方法の変更に対応が必要、取引先の管理が必要になるなど、手間が増える一方です。
2024年1月から施行された電子帳簿保存法により、これまで紙媒体で取り扱ってきた書類の電子化も義務付けられています。
インボイス制度が「やばい」「誰が得する?」と批判される理由
インボイス制度は、課税売上高が1,000万円以上の課税事業者のみに適用されます。個人事業主や中小企業など課税売上高が1,000万円未満の免税事業者には適用されず、適格請求書を発行することができません。
免税事業者は従来の区分記載請求書を使用できるものの、取引先の課税事業者は、区分記載請求書では仕入税額控除が受けられません。したがって、取引先を課税事業者に絞る可能性があります。
免税事業者が課税事業者となれば取引の維持が可能になるものの、消費税の納税負担が生じるため、結果として報酬が減少します。
インボイス制度が批判されているのは、こうした理由からです。
インボイス制度は何のため?制度導入の目的と狙い
インボイス制度が導入されたのは、2つの異なる消費税率が混在する中で正確な税額計算を可能にするという目的からです。
2019年の消費税率引き上げに伴い、食料品などには8%の軽減税率が適用される一方、それ以外の商品やサービスには10%の標準税率が適用されるようになりました。そのため、それぞれの税率において消費税額を算出し、正確な消費税額等を把握する必要があります。
適格請求書には商品やサービスごとに消費税率と消費税額が記載されているため、売り手と買い手双方で、消費税の納税・控除の対応がしやすくなります。
インボイス制度に対応するための準備方法
インボイス制度への対応はどういう方法で準備を進めればよいか、ステップに沿って解説します。
適格請求書発行事業者への登録
以前から課税事業者であった場合、所轄の税務署に「適格請求書発行事業者」の登録申請を行う必要があります。
適格請求書を発行できるのは、税務署に適格請求書発行事業者として登録された課税事業者のみで、登録を受けていない課税事業者は適格請求書を発行することができません。
なお、免税事業者が適格請求書を発行可能になるには、まず所轄の税務署に「消費税課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者へ切り替えた上で、適格請求書発行事業者への登録申請を行う必要があります。
適格請求書発行事業者の登録手続きについては、こちらの記事で詳しく紹介しています。
▶「適格請求書発行事業者」とは?税務署への登録手続きと消費税納付の義務を解説
会計システムの確認と改修
現在使用している会計ソフトや請求書発行システムが、インボイス制度に対応しているかを確認し、必要に応じてシステムを改修します。
クラウド型の会計・請求書発行システムを利用している場合、大半は自動更新によりインボイス制度を含めた法改正に対応しています。ただし、万が一対応していない可能性もあるので、事前にプロバイダー側に確認することがとても重要です。
自社で独自開発したシステムの場合は改修に時間を要する可能性があるので、早めの着手がおすすめです。
請求書フォーマットの変更
インボイス制度に対応するために、従来の請求書フォーマットを新たに適格請求書(インボイス)の形式に変更します。
適格請求書には、取引に適用される税率とそれぞれの消費税額、税務署から割り当てられた登録番号の記載を含める必要があります。
大半のクラウド型のサービスでは請求書フォーマットが自動変更されていますが、万が一に備えてプロバイダーに確認しておきましょう。
取引先との調整
取引先が課税事業者か免税事業者かを確認した上で、仕入税額控除が受けられるよう適格請求書を発行してもらえるかどうか調整を行います。
特に免税事業者との取引については、相手が課税事業者に切り替えない限りは適格請求書を発行してもらえず、仕入税額控除も受けられないため、取引内容を見直す必要があるかもしれません。
また、取引先が従来的な紙の請求書のみか、それとも電子版の適格請求書(電子インボイス)に対応しているかも確認しておきましょう。
まとめ
インボイス制度では、適格請求書への発行に対応することで、適用税率ごとに消費税額の正確な把握が可能になり、適切な申告と納税につながります。課税業者同士であれば取引の継続や拡大などのメリットもあります。免税事業者にとっては取引の減少や停止につながるリスクがあるため、課税事業者に切り替えたとしても、消費税の納税負担は避けられません。
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