「繰延」とは?費用・収益それぞれの会計処理や繰延資産への計上を解説

繰延とは、当期の収支のうち次期分以降に該当する費用や収益を、決算時に当期の会計から外し、実際の年度分として処理することをいいます。

この記事では、消費、収益それぞれの繰延処理方法や、繰延資産となる項目、税法・会計上それぞれの償却期間について解説します。会計業務を行う際の参考にしてください。

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「繰延」とは?費用・収益それぞれの会計処理や繰延資産への計上を解説

繰延とは

繰延とは、次年度以降分に該当する収支について、決算時に行う会計処理のことを指します。

通常、決算までに行われた取引については当期の会計に含まれますが、支払った費用や得た収益が次年度以降分を含んでいる場合は、次年度以降の分として処理しなければなりません。

決算整理では、当期分に該当しない部分の費用と収益を除き、当期分の費用と収益が正確になるように修正を行います。

費用の繰延処理

事業年度をまたいで次年度分の費用を支払った場合、支払時には次年度分を含めた費用を支出として計上します。

ただし決算時には、次年度分に該当する金額を前払費用として振替し、次年度に繰延を行いましょう。例えば、当年の4月~翌年3月までのサービス利用料などを支払った場合は、翌年1月~3月の分が次年度の分として繰延となります。

翌期の期首には、期末に繰延した分を再度費用の勘定科目に戻し入れ、再振替仕訳して費用計上します。

収益の繰延処理

受け取った収益に次期以降分の収益が含まれている場合、その分を当期の収益から除く処理をする必要があります。

受取時には次年度以降分も売上高として計上します。さらに決算時、前受けしている次期以降分を「前受収益勘定(負債)」に振替し、「受取地代(収益)」の残高を当期分だけの金額に修正します。

次年度には前受収益として計上した分を売上高として再振替仕訳し、計上しましょう。

繰延の反対は見越し

繰延の反対は「見越し」といいます。

見越しは、当期中に収入・支出がない金額であっても、発生主義の観点から判断して、想定しうる費用や収益を当期の費用・収益として計上することです。

繰延資産の概要とほかの資産との違い

繰延資産は固定資産や流動資産と混同されることもあります。繰延資産とは何か、ほかの資産との違いなどを解説します。

繰延資産とは

繰延資産とは、長期的な効果が見込まれるものに使用される勘定科目です。一度資産に計上し、複数年かけて経費として処理します。会費においては、同業者団体への加入金や会費が該当します。

ただし、20万円未満の場合は一括で経費計上が可能です。また、繰延資産は会計上・税務上で意味合いが異なり、会計上の繰延資産として計上できる対象は限定されています。

固定資産との違い

固定資産には財産価値がありますが、繰延資産には、財産価値がありません。

固定資産とは長期保有が前提となる、取得から1年以内には売却しない資産のことです。具体的には、土地や建物などが該当します。

これに対して、繰延資産はそもそも売却できない資産です。したがって財産価値は「ない」と判断されます。

流動資産との違い

流動資産には財産価値がありますが、繰延資産には、財産価値がありません。

流動資産とは、1年以内に現金化できる資産のことです。具体的には、預金や有価証券などが該当します。先述のとおり繰延資産には財産価値がないという点で、流動資産と大きく違います。

繰延資産となるもの

繰延資産とは、長期間にわたって効果を生み出し続ける可能性があるものを指します。以下では繰延資産の具体例を解説します。

創立費

創立費は、会社設立に伴う支出のことです。

創立費の内訳には、登録免許税や定款作成費用、これらを準備する際の司法書士への報酬などが含まれます。

開業費

開業費は、設立から実際に事業を開始するまでにかかった費用です。

具体的には、会社創立時の事務所における土地や建物の賃借料、開業前に発生した宣伝広告費などが含まれます。

社債発行費

社債発行費は、社債の発行に伴い発生した支出や、新株予約権を発行するための支出です。

社債発行費には、広告費、目論見書の準備費用、金融機関や証券会社に支払う取扱手数料、登記の際の登録税などが含まれます。

開発費

開発費は、新技術の開発や資源開発、新しい市場開拓などにかかる費用です。

基本的に、新たな事業の開始に伴う開発費用はすべて開発費とすることができます。一方、毎年発生する経常費用は含まれません。

株式交付費

株式交付費は、株式に関するさまざまな費用です。古くは「新株発行費」と呼ばれていたこともあります。

例えば、新株発行や自己株式の処分にかかった費用などが株式交付費に含まれます。株式募集のための広告費や、証券会社といった金融機関に支払った取扱手数料なども株式交付費です。

税務上で認められている繰延資産

税務上で繰延資産として認められているものには、以下のような資産があります。

役務提供の権利金

役務提供の権利金とは、会社経営に必要な情報を得るために要した費用のことです。

具体的には、フランチャイズの加盟金やノウハウの提供料などが該当します。これらは一時金あるいは頭金など、一時的な費用です。

広告宣伝用の資産

広告宣伝用の資産には、法人が設置した看板やネオンサイン、自動車、モデルハウスといった資産のうち、特約店などに対して贈与されたものが該当します。

あくまでも広告宣伝を目的に贈与されたものが対象であり、自社で設置する看板は資産の贈与に当たらないことも確認しましょう。

公共的施設の負担金

公共的施設を新たに設置する、またはリフォームなど改良を行うために会社が負担した負担金は、繰延資産に該当します。

公共的施設とは、会社が直接的もしくは間接的に便益を受ける施設のことです。具体的には、その会社が所属する商店街の施設や、組合・協会などの施設のことを指します。

資産を貸借する権利金

資産を貸借する権利金とは、権利金や立退料、仲介手数料などです。例えば、事業所や、事業者で使用する機器を貸借する際に必要となる金額が該当します。

貸借に必要な費用といっても、敷金や礼金、保証金などは含まれません。一方、電子機器の設置費用、また取り外した商品の引取費用などは含まれます。

償却期間

「償却」や「償却期間」の考え方には複数あります。ここでは任意償却と均等償却、また会計上の償却と税法上の償却、それぞれについて解説します。

任意償却

任意償却は、償却期間および繰延資産額の範囲であれば、任意のタイミングで償却できる方式です。この場合、繰延資産として計上せず、取得年度に一括で全額を費用計上することもできます。別名で一時償却とも呼びます。

下限、上限ともに決まっていないのも特徴の1つです。

均等償却

均等償却は、繰延資産の金額を均等に配分し、毎月(毎年)にわたって同額を費用処理する方法です。実際にどれくらいの期間にわたって配分するかは、繰延資産の種類によって決められているため一概にはいえません。

一部は5年あるいは12年など期間が決められていますが、一部は耐用年数の10分の7に相当する年数、あるいは10分の4に相当する年数など、耐用年数を基準に期間が決められるものもあります。

均等償却の方法は、法人税法施行令に記載されています。以下のウェブサイトも参考にしましょう。

※参考:第2節 繰延資産の償却期間|国税庁

会計上の償却期間

会計上の償却期間は、以下のとおりです。

  • 創立費:5年
  • 開業費:5年
  • 開発費:5年
  • 株式交付費:3年
  • 社債等発行費:社債償還期間
  • ※新株予約権発行費:3年

社債等発行費のみ、利息法を用いて社債償還期間で償却します。なお新株予約権発行費に限っては、定額法で3年間です。

均等償却もしくは任意償却いずれかを選択したうえで、会計処理を行いましょう。詳細については以下のウェブサイトも参考にしてください。

※参考:Ⅱ 繰延資産の範囲について|国税庁

税法上の償却期間

税法上の償却期間は、均等償却を適用します。法人税法施行令第64条1項の規定により、期間は資産ごとに細かく決められているため、参考にするとよいでしょう。

一例として、役務提供の権利金は5年、公共的施設の設置又は改良のための支出する費用は、その施設又は工作物の耐用年数の、10分の7に相当する年数などが定められています。

均等償却の計算方式

均等償却は、以下の計算式で算出できます。

償却額 =(繰延資産の金額 ÷ 費用支出の効果が及ぶ期間の月数) × 当該事業年度の月数(12か月)

均等償却の計算では、まず全額を償却期間の月数で割ることで、1か月あたりの償却額を算出します。さらに、その金額に12か月をかけることで、年間の償却額を算出することが可能です。

また1カ月ごとに償却額を算出することで、年度の途中から償却期間が始まっている場合にも対応できます。

繰延資産を活用するメリット

繰延資産は、税負担の軽減策として活用できます。

売上が多いときには繰延資産の償却費を増やすことで経費を増やしたり、売上が少ないときには繰延資産の償却は行わずに、償却費を抑えて経費を減らしたりと、調整を行うことで税負担の軽減が可能です。任意償却は1回で多額の償却費を計上できるため、効果も大きいといえます。

繰延資産の注意点

繰延資産は、貸借対照表と損益計算書で使用する勘定科目が異なるため注意が必要です。

また、正当な方法以外で繰延資産を活用すると、粉飾決算や脱税とみなされる恐れがあるため、イレギュラーな方法はとらないようにしましょう。

まとめ

繰延は、次年度分の費用や収益を正確に処理するために必要な会計処理です。発生主義の観点に基づき、正確な処理を行いましょう。繰延資産となる費用は法令で定められているため、あわせて確認してください。

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