相殺(そうさい)とは?成立要件やメリット、請求書での処理方法を解説
- 記事公開日:
- 最終更新日:2026-04-17
- この記事の3つのポイント
- 相殺とは、当事者間がもつ同じ種類の債権・債務を同じ額だけ差し引き、消滅させる決済手段
- 相殺を行うには、同種対立債権の存在・自働債権の弁済期・相殺禁止債権でないかを確認する
- 相殺は、取引先との合意形成を行ったうえで、必要書類の発行や会計処理を進める
相殺(そうさい)とは?成立要件やメリット、請求書での処理方法を解説
相殺は、自社と取引先がもっている同じ種類の債権・債務を互いに打ち消す処理です。商取引ではよく利用される決済手法で、工数やコスト削減、資金繰りの安定化などに役立ちます。ただし、実施には一定の要件や注意点があるため、事前の準備が重要です。
本記事では、相殺の概要や成立要件、メリット、手順を解説します。具体的な仕訳例も紹介していますので、ぜひお役立てください。
相殺(そうさい)とは?
相殺(そうさい)とは、当事者同士がそれぞれもつ債権と債務を、同じ種類・範囲内で差し引いて消滅させる仕組みです。互いの請求と支払を帳消しにし、重なる金額分を調整するものと捉えると理解しやすいでしょう。
たとえば、X社がY社に対して30万円の売掛金を有しており、一方でY社に対して45万円の買掛金を負っている場合、30万円分を相殺し、X社は差額の15万円のみをY社へ支払います。互いに売掛金が発生している状態のグループ会社間取引なども対象となり得るでしょう。
相殺が成立する要件
相殺は一定の要件を満たさないと、処理が認められない可能性があります。本章では、実務上押さえておくべき要件を3つ解説します。
当事者間に同種の対立する債権が存在すること
相殺を成り立たせるには、まず当事者双方が互いに請求できる権利をもっていることが必要です。また、債権の内容が同種であることも欠かせません。
代表例として、双方が金銭債権を有しているケースが挙げられるでしょう。たとえば、X社がY社に売掛金40万円を請求でき、Y社もX社に30万円の支払を求められる場合、重なる30万円分は相殺の対象とみなされます。
一方で、片方が代金請求、もう片方が商品の引渡請求といったように対象となる債権の性質が異なる場合は、原則として相殺できません。互いに求めるものが「金銭」であれば、契約が異なる取引であっても相殺対象とすることが可能です。
自働債権の弁済期が到来していること
相殺を申し出るには、原則として自分が相手に対してもつ債権、すなわち自働債権の支払期限(弁済期)が到来していることも要件の一つです。弁済期とは、債務者が実際に支払を行うべき時期を指します。
たとえば、X社がY社に30万円を請求できる売掛金をもっていても、支払期日前であれば、X社は相殺を主張できません。ただし、相殺される側の債権は期限前でも相殺可能とされるケースもあります。
法第505条では、相殺を行うには、少なくとも自働債権の弁済期が到来していることが基本とされています。個別の契約内容や債権の性質によって扱いが異なる場合もあるため、実際に相殺を行う際は契約条件をよく確認することが重要です。
また、期限前の債権を一方的に相殺すると関係悪化を招きかねないため、互いの契約状況や事情を加味しながら弁済期を確認し、決済を進めるのが望ましいでしょう。
参考: e-Gov 法令検索「民法第505条」
相殺が禁止されていない債権であること
相殺対象とする債権が、法律や契約によって差し引きを禁じられていないことも要件に含まれます。
たとえば、契約で相殺禁止の特約がある債権は、一方の判断だけで処理できません。
また、不法行為に基づく一定の損害賠償債権も、悪意のある不法行為や生命・身体侵害に関するものなどは相殺の対象外とされる場面があります。差押えが関係する債権についても、相殺可否が時期や要件によって変わるため、慎重な判断が必要です。
上記のように、金額や種類の条件を満たしていても相殺が認められない債権もあるため、成立しないケースがあることを押さえておきましょう。
相殺処理のメリット
相殺処理には複数の要件があるものの、実施することで得られるメリットも多くあります。代表的なポイントは以下のとおりです。
決済フローをシンプルにできる
相殺処理を採り入れると、請求と支払を個別に行う回数が減り、決済の流れを整理できます。銀行振込や入金確認、消込業務などの工程をまとめやすくなるため、経理担当者の負担軽減にも効果的です。
特に継続的に取引がある相手先の場合、資金移動の回数を抑えられ、振込ミスや入金遅延、確認漏れの防止にもつながります。また、振込回数が減ることで振込手数料も削れるでしょう。なお、相殺に関する書類は記載内容によって印紙税の取扱いが異なるため、必要に応じて確認しましょう。
資金繰りへの影響を抑えやすい
相殺を活用すると、受け取り予定の金銭と支払予定の金銭を差し引いて精算できるため、実際に動かす現金を抑えられます。資金が外へ出る額を小さくできるため、手元資金に余裕を残しやすく、日常の運転資金や急な支出にも対応しやすくなるのが魅力です。
資金繰りが逼迫しやすい状況では、支払総額を圧縮でき、資金がショートするリスクも軽減できるでしょう。現金の流出を減らしつつ、同時に決済も進められるため、キャッシュフローの安定化にもつながります。
債権管理の安全性を高められる
取引先の業績悪化や倒産が起きた場合、互いの債権債務を差し引くことで未回収額を減らせる点も大きなメリットです。
相手に支払う金額の範囲で自社の債権を実質的に回収できるため、貸し倒れによる損失が発生するリスクを軽減できます。
また、相殺は現金のやり取りをせずに処理できる仕組みです。取引先に信用上の不安があっても自社の債権を守りやすく、安全性のある管理体制を整えやすいでしょう。
請求書による相殺処理の方法
相殺処理は、双方のトラブルを避けるため、ある程度決まった流れで進めるのが基本です。具体的な手順について、請求書を用いた場合を例に紹介します。
取引先との間で合意形成する
まずは、事前に取引先と認識を一致させておくことが大切です。
対象となる債権・債務の内容、相殺日、差引後の残額などを明確にし、双方が納得したうえで処理を進める必要があります。
法律上は、一方の意思表示で成立する「法定相殺」が認められているものの、実務では当事者同士の合意によって行う「約定相殺」が一般的です。約定相殺であれば、誤解や資金繰りへの影響を避けやすく、取引関係の悪化防止にもつながります。
合意の手段としては、メールや書面で具体的な金額や対象取引、取引日などを示し、合意内容を記録しておくことが推奨されます。相殺通知書・相殺契約書を用いて進めるのもよいでしょう。
相殺内容を反映した請求書を発行する
双方の合意が整ったら、対象内容を反映した請求書や精算書を発行します。ただし、専用の書式を用意する必要はなく、通常の請求書に必要事項を明記する運用でも構いません。
具体的には、通常の請求書記載事項に加えて、対象債権・債務の詳細や元の請求額、相殺する金額や差引後の請求額を区別して示すことが必要です。相殺額は「△」や「▲」などで明示すると見やすくなり、誤認も防ぎやすいでしょう。
また、相殺であることを明確にするために、全額相殺の場合は「本件は相殺により精算済みのため、お振込みは不要です」などと記載し、備考欄にも説明を加えると通常時の請求書と区別しやすくなります。
なお、インボイス制度の対象取引では、登録番号や税額など適格請求書の基本要件を満たしたうえで相殺に必要な事項を記載する必要があります。記載漏れがないよう確認しながら作成しましょう。
請求書に相殺を記載する場合の書き方については、以下の記事も参考にしてください。
関連記事:請求書の「相殺」処理の書き方(マイナス伝票の付け方)とメリット・デメリット
相殺領収書を発行・交換する
請求書の発行後は、必要に応じて相殺領収書を発行し、双方で取り交わします。領収書は、相殺によって債権と債務が消滅した事実を示す証拠書類となり、監査や税務調査が行われた場合は取引の経緯を示す資料としても役立ちます。
記載事項は、金額・実行日・相殺した旨・双方の署名または記名・押印が一般的です。発行自体は法的に必須ではないものの、後日の認識違いや確認漏れを防ぐためにも双方で発行し、保管しておくのが有効です。
また相殺領収書を作成する際は、相殺の精算である旨を文書上明確に記載しないと、印紙税上の受取書とみなされ、課税対象文書となる可能性があります。
相殺領収書の書き方については以下の記事で解説していますので、併せてご確認ください。
関連記事:売掛・買掛の相殺領収書の書き方や会計処理と「どちらが発行すべき?」を解説
相殺の会計処理をする
相殺取引の完了後は、会計処理として差し引いた金額を会計帳簿へ正確に反映させることが必要です。一般的には、相殺額に応じて売掛金や買掛金などをそれぞれ減額し、処理後の残高が実態と一致するよう整えます。
また、得意先・仕入先ごとの台帳や債権・債務管理表も更新し、月次資料との整合性を取れるように整理しておくことも大切です。
発行済みの相殺請求書や相殺領収書などの関連書類は証憑として保管し、後日の確認や監査対応に備えましょう。
相殺処理したときの仕訳例
相殺処理の仕訳では、相手先に対する売掛金と買掛金を、相殺した金額分だけ相互に減額して記録するのが基本の流れです。
たとえば、以下の取引状況では表のように仕訳します。
- 相手先への売掛金:40万円
- 買掛金:30万円
- 相殺金額:30万円
- 相殺後の回収額(口座入金):10万円
借方 | 貸方 | ||
|---|---|---|---|
買掛金 | 300,000円 | 売掛金 | 400,000円 |
普通預金 | 100,000円 | ||
債権・債務を互いに消込みつつ、差額だけを実際の入出金として処理します。なお、全額を相殺する場合は買掛金・売掛金に同じ額を計上し、差額が出ないように処理すれば問題ありません。
相殺に関する注意点
相殺には効率化の利点がある一方で、運用面では注意すべき点もあります。
たとえば、売掛金と買掛金の内容や期限を照合し、対象取引を正確に特定する必要があるため、通常の入出金処理より事務負担が複雑化しやすいです。作成書類の増加や承認フローの工程が増えることも懸念材料となるでしょう。
さらに、相殺額や対象時期について社内もしくは取引先で認識がズレると、請求内容をめぐるトラブルや信頼関係の悪化を招く恐れもあります。
加えて、入金と支払を互いの会計処理のみで差し引くため、実際の現金の流れが見えにくくなり、資金計画にズレが生じる点もデメリットです。
実施時には社内管理体制を整備し、取引先とも十分な合意を形成しておくことが欠かせません。
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相殺処理は、複数の取引をまとめ、互いに売掛金・買掛金を打ち消せるメリットの多い決済方法です。
ただし、事前の十分な合意形成や社内での運用体制の準備が求められ、管理が不十分だとかえって手間が増え、取引先とのトラブルを引き起こしかねません。ミスなくスムーズな相殺処理を行いたい場合は、管理体制を見直して専用ツールを活用するのもよいでしょう。
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