電子帳簿保存法による個人事業主への影響と対応方法について解説
- 記事公開日:
- 最終更新日:2025-06-04
- この記事の3つのポイント
- 電子帳簿保存法とは、帳簿や書類を紙ではなく電子データで保存できることを定めた法律
- 紙の領収書やレシートは適切に保管し、電子データについては要件に沿った保存が求められる
- 電子帳簿保存法に対応した会計ソフトを利用すれば、取引データの整理や保存がスムーズに行える
2024年から電子帳簿保存法の改正が本格的に施行され、領収書やレシートの管理方法はもちろん、電子取引データの保存ルールもしっかりと守る必要があります。特に青色申告を行う場合は、正しい手続きにより控除額にも大きな影響が及ぶため、注意しましょう。
本記事では、電子帳簿保存法が個人事業主に与える影響と、具体的な対応策についてわかりやすく解説します。
電子帳簿保存法による個人事業主への影響と対応方法について解説
電子帳簿保存法とは?
電子帳簿保存法とは、国税関係の帳簿や書類を紙ではなく電子データで保存できるようにルールを定めた法律です。
対象となる保存方法は「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引データ保存」の3つです。2022年に改正が行われ、2024年1月から電子取引のデータ保存が原則義務化されました。
紙に出力して保存する方法が基本的に認められなくなり、取引データは電子のまま保存・管理する必要があります。対応には、システム整備や社内ルールの見直しが不可欠です。
電子帳簿保存法については関連記事をご参照ください。対象書類や保存要件など、詳しく解説しています。
電子帳簿保存法の個人事業主への影響
電子帳簿保存法は、個人事業主にも影響があります。証憑書類の電子データの保存や、タイムスタンプの付与などに対応しなくてはなりません。詳しくみていきましょう。
証憑書類の電子データを保存しなければならない
電子帳簿保存法の改正により、見積書や請求書、納品書、領収書などの証憑書類をメールやクラウド経由で受け取った場合は、必ず電子データのまま保存することが義務付けられました。
これまでは印刷して保管するケースも見られましたが、2024年1月以降は個人事業主であってもデータでの保存が原則です。紙で授受した書類は、従来どおり紙のままでも問題ありませんが、電子取引による証憑は、法令に従い電子データで管理する必要があります。
保存した書類によってはタイムスタンプを付与しなければならない
タイムスタンプとは、電子データが「いつ存在していたか」と「改ざんされていないか」を証明する技術です。
電子帳簿保存法では、これまでタイムスタンプの付与が必須とされていましたが、近年の制度緩和により、保存システムが訂正・削除の履歴を残せる場合には、省略できるケースも増えています。
ただし、紙で受け取った書類をスキャナで読み取って保存する「スキャナ保存」の場合は、一定期間内に総務省認定の時刻認証事業者が発行したタイムスタンプの付与が原則必要です。
期間は「早期入力方式」で7営業日以内、「業務サイクル方式」では2カ月+7営業日以内です。適用対象や保存方法を正しく理解し、適切に対応しましょう。
タイムスタンプの仕組みや不要なケースについては、こちらの記事をご参照ください。
個人事業主に求められる電子帳簿保存法への対応内容
個人事業主が電子帳簿保存法にスムーズに対応するには、いくつかポイントがあります。
効率的なデータ管理を行う
効率的かつ正確なデータ管理体制を構築しましょう。
電子保存が義務化されたことで、単にデータを保存するだけではなく、迅速に検索・確認できる仕組みが必要です。たとえば、ファイル名に「取引日」「取引先」「金額」などを付けることで、必要な書類を短時間で探し出せます。
具体的には「2025-01-01_株式会社ABC_請求書.pdf」のような形式にすることで、条件検索にも対応できます。
ほかにも、Excelなどで索引ファイルを作成し、ファイル名・保存場所・取引内容を一覧管理する方法もおすすめです。複数条件による絞り込みにも対応でき、法的要件への適合と業務効率の両立が図れるでしょう。
データの保管場所を決めておく
電子データの保管場所を明確に決めておくと、必要な時に速やかに検索・閲覧し、提出できます。
ただ、パソコンのローカル領域に保存するだけでは、故障やウイルス感染によるデータ消失リスクが高まるため注意が必要です。たとえば、日常的に使うパソコンに保存しつつ、定期的に外付けハードディスクやUSBメモリにバックアップを取ることが推奨されます。
Google ドライブやDropboxなど、履歴管理や自動バックアップ機能が備わったクラウドサービスを併用すると、より安全性が高まるでしょう。
電子帳簿保存法に対応した会計ソフトを活用する
電子帳簿保存法に対応した会計ソフトを利用すれば、取引データの整理や保存がスムーズに行え、電子帳簿保存法が求める検索性や保存要件にも対応しやすくなります。
特に、電子帳簿保存・スキャナ保存・電子取引の3つすべてに対応したソフトを選ぶと安心です。現在利用中の会計ソフトが対応しているかどうかも確認しましょう。
さらに、タイムスタンプ機能を搭載したシステムを使えば、スキャナ保存にもスムーズに対応でき、業務効率の向上につながります。なお、クラウド型で自動バックアップ機能があるサービスを選べば、データ消失リスクも減らせます。
ペーパーレス化を検討する
電子帳簿保存法に対応するうえでは、ペーパーレス化の推進が重要です。
法改正後も一時的に紙の書類管理は認められていますが、紙と電子データの両方を管理するのは手間が増え、ミスや管理漏れのリスクも高まります。将来的な業務効率やコンプライアンスの観点からも、早い段階で書類の電子管理へ一本化するのが望ましいでしょう。
具体的には、請求書や領収書をPDFで保存し、クラウドシステムなどで一元管理する方法が有効です。スキャナ保存を活用して紙書類を電子化すれば、検索やデータ整理もスムーズに行えます。
個人事業主が対応すべき領収書・レシートの保存について
個人事業主にとって、領収書やレシートの保存は重要です。電子帳簿保存法に対応するために、必要な保存期間や管理方法を解説します。
紙のレシートの保存対応
個人事業主が受け取った紙の領収書やレシートは、これまでどおり紙のまま保存することが認められています。ただし、保存期間は個人事業主の場合5年間と定められており、その間は原本を適切に保管し続けなければなりません。
紙保存は自由な方法で管理できますが、月ごとにまとめる、ノートに貼り付けるなど、後から確認しやすい整理が重要です。感熱紙のレシートは印字が消えやすいため、スキャナ保存を活用して電子データ化すると安心です。
電子データのレシートの保存対応
電子データとして受け取った領収書やレシートは、電子データのまま保存することが義務付けられています。
紙のレシートをスキャンまたは撮影して保管するだけではなく、タイムスタンプの付与や検索性の確保など、一定の保存要件を満たす必要があります。スキャナ保存に対応していれば、紙のレシートは破棄して構いません。
電子データとして保存すれば、ペーパーレス化につながり、業務効率化が期待できます。保存方法の選定は、管理のしやすさや導入コストを踏まえて判断しましょう。
電子帳簿保存法における領収書の保存方法については、細かい要件があります。以下の記事をご覧ください。
青色申告・白色申告をする際の電子帳簿保存法への対応方法
電子帳簿保存法への対応方法は、青色申告か白色申告かで異なります。
青色申告の場合
青色申告では、一定の要件を満たすことで特別控除を受けることができます。
55万円控除を受けるための要件は以下のとおりです。
※すべて満たすことが必要
- 不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいること
取引を正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)により記帳していること
複式簿記に基づいて作成した貸借対照表および損益計算書を、確定申告書に添付すること
申告期限(通常は翌年3月15日)までに、確定申告書を提出すること
65万円控除の条件は以下のとおりです。
※55万円控除を受けるための要件を満たした上で、下記のいずれかを満たすことが必要
- 仕訳帳と総勘定元帳について電子帳簿保存を行う
- e-Taxを利用して確定申告書、貸借対照表、損益計算書を期限内に提出する
白色申告の場合
白色申告者も、帳簿の記録義務が課されます。
取引内容を正確に把握するため、法定帳簿(収支内訳書の作成に必要な帳簿)や任意帳簿、棚卸表、領収書・請求書などの証憑書類を保存しておきましょう。
電子帳簿保存法のルールにより、電子データで受領したレシートや請求書は電子のまま保存しなければなりません。
なお、白色申告者には青色申告のような控除制度がないため、保存義務違反による直接的な罰則はありません。しかし、税務調査で帳簿類に不備があった場合、申告内容が指摘されるリスクもあります。正確な記帳と保存を心がけることが大切です。
まとめ
個人事業主にとって、電子帳簿保存法への対応は不可欠です。紙の領収書やレシートは適切に保管し、電子データについては要件に沿った保存をしましょう。
青色申告では、最大65万円の控除を受けるために、電子帳簿保存やe-Tax利用が条件となります。白色申告者も同様に、帳簿や証憑類の適切な保存義務があるため注意が必要です。
保存する際の対応方法として、データの保管場所を決め管理するほか、ペーパーレス化や電子帳簿保存法に対応した会計ソフトを活用するなど、検討しなければいけません。
日々の経理業務が、効率良く正確に行えるよう、最適な方法で保管するよう心がけましょう。