給与の勘定科目は?給料・賃金との違いや仕訳例、個人事業主の場合について解説
- 記事公開日:
- 最終更新日:2025-05-15
- この記事の3つのポイント
- 給与は、正社員・役員・パート・アルバイト・派遣などの雇用形態により勘定科目が異なる
- 給与は仕訳をする際、給料手当や預り金など複数の勘定科目を使用する
- 法人とは異なり、個人事業主の場合は自分への給与を経費にできず「事業主貸」で処理をする
給与は正社員や役員、アルバイトなど、雇用形態により使用する勘定科目が異なります。
本記事では、給与を支払うときの仕訳例や天引きされる費用を納付する際の仕訳例など、具体的な例を用いて解説します。個人事業主の場合なども解説しているので、参考にしてください。
インボイス制度の概要を知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
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給与の勘定科目は?給料・賃金との違いや仕訳例、個人事業主の場合について解説
給与とは?給料・賃金との違い
「給与」とは、従業員に支払われる報酬全体を指す言葉です。基本給だけでなく以下も含み、労働の対価として企業から支払われるすべての金銭的報酬を広く指します。
- 残業代
- 各種手当
- 交通費
- 賞与 など
一方で「給料」は、給与の中でも固定的に支払われる基本給部分を指します。残業手当や通勤手当のように月ごとに変動する報酬は、給料には含まれません。「給料=毎月決まった額」「給与=変動部分を含めた総支給額」と覚えておくとわかりやすいでしょう。
また「賃金」は、法律上の定義として最も広い概念であり、給与だけでなく定期券のような現物支給や事業主が負担する社会保険料、退職金の前払いなども含まれます。
ただし、一般的な会話でこれらの用語が区別されることは少なく、まとめて「給料」と呼ばれることも多いため注意が必要です。
関連記事:賃金と給与の違いや支払期限、未払時の罰則について解説
給与の支払に使用する勘定科目
給与を経理処理する際には、支給対象や業務内容に応じて適切な勘定科目を使い分けることが重要です。正社員や役員、パート・アルバイト、さらには派遣社員など、雇用形態によって用いる勘定科目が異なります。
ここからは、それぞれのケースに応じた勘定科目について解説します。
正社員の場合
正社員に対する給与の支払では、以下の勘定科目を使うのが一般的です。
- 給料手当
- 給料賃金
- 給与など
これらはいずれも、基本給や各種手当などをまとめて計上するための勘定科目です。なお、製造業のように原価計算が必要な業種では、工場勤務者への給与を「賃金」、事務職などへの給与を「給与」として分けて処理することもあります。
また通勤手当などは給与に含めず「旅費交通費」として別に仕訳します。
役員の場合
役員に支払う報酬は従業員とは異なり、用いる勘定科目は「役員報酬」です。役員は取締役や監査役など会社法上の重要な職務を担うため、法人税法上も厳格なルールが設けられています。
賞与と明確に区別したい場合は「役員給与」という勘定科目を使うこともあります。株主総会で決定される役員報酬は、従業員の給与とは別に管理が必要となるため、注意しなければなりません。
パートやアルバイトの場合
パートやアルバイトの給与を正社員と区別して処理したい場合は「雑給」という勘定科目を用います。「雑給」は、臨時雇用の人件費として一般的に使われる勘定科目です。
ただし、特別に区分する必要がなければ「給料手当」など正社員と同じ勘定科目に含めて処理することも可能です。企業の管理体制や会計方針によるため、最初に確認しておきましょう。
派遣社員の場合
派遣社員の場合は、給与の支払先が派遣会社となるため、勘定科目も異なります。派遣会社に支払う費用は「外注費」や「支払手数料」、「人材派遣料」として処理するのが一般的です。
派遣社員は自社で直接雇用しているわけではなく、外部委託に近い形で業務を依頼している扱いになるためです。派遣社員個人ではなく、派遣元企業への支払として考える点がポイントとなります。
外注費の定義や支払手数料になる経費など、詳しくは以下の記事で解説していますので、ぜひご覧ください。
給与を支払うときの仕訳例
給与は従業員に支払う重要な経費であり「給料手当」や「預り金」など複数の勘定科目を使用して仕訳します。
源泉所得税や社会保険料などの控除を行い、実際の支給額、未払処理や前貸し・前払いといったケースも踏まえ、正確に処理する必要があります。ここからは、具体的な仕訳例をケース別に見ていきましょう。
給与を支払う場合
従業員に給与を支払った場合の仕訳は、以下のとおりです。
従業員全員に支払った給与額の総支給額が300万円(うち通勤手当が10万円)、社会保険料・源泉所得税・住民税などの控除額が60万円とします。雇用保険料が3万円の場合、差引支給額は237万円です。
支給方法が預金振込の場合、仕訳は以下のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
給料手当 | 2,900,000円 | 普通預金 | 2,370,000円 |
旅費交通費 | 100,000円 | 預り金 | 570,000円 |
立替金 | 30,000円 |
通勤手当は「旅費交通費」、その他は「給料手当」に計上します。なお、健康保険料や厚生年金保険料などは、従業員が負担する分を「預り金」、会社が負担する分を「法定福利費」として処理することも可能です。
この場合、会社負担分は給与支払時に「法定福利費」として費用計上され、後の支払時に相殺処理を行います。支払方法が現金の場合は「普通預金」を「現金」に変更して仕訳します。
預り金や法定福利費について詳しくは、以下の記事をぜひお読みください。
関連記事:勘定科目「預り金」とは?仕訳(貸方・借方)の例と会計処理をわかりやすく解説
関連記事:法定福利費とは?計算方法や仕訳例、福利厚生費との違いなど解説
給与を未払計上する場合
給与計算期間と支給日が異なる場合、発生主義の原則に基づいて未払処理を行います。たとえば、12月分の給与として450万円を未払で計上する場合、仕訳は以下のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
給料手当 | 4,500,000円 | 未払費用 | 4,500,000円 |
次に翌月支給時に現金または預金で支払った場合は、未払費用を取り崩す仕訳を行います。現金払いであれば以下のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
未払費用 | 4,500,000円 | 現金 | 4,500,000円 |
さらに、前月に計上した未払給与(例:400万円)を当月に取り崩す場合は、給料手当の貸方処理を忘れずに行いましょう。
未払費用について理解を深めたい方は、以下の記事をご一読ください。
関連記事:勘定科目 「未払費用」は未払金と違う?仕訳や決算の注意点をわかりやすく解説
給与の前貸しや前払いをする場合
従業員に対して給与の一部を前貸しするケースもあります。たとえば、給与支給前に3万円を現金で前貸しした場合の処理は、以下のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
立替金 | 30,000円 | 現金 | 30,000円 |
その後、給与支給時に総額25万円のうち、前貸し分を控除し、預金から残りを振り込んだ場合の仕訳は次のようになります。
借方 | 貸方 | ||
給料手当 | 250,000円 | 立替金 | 30,000円 |
普通預金 | 220,000円 |
また前貸し分を現金で回収した場合には、現金と立替金を相殺する仕訳を行います。前貸しはあくまで「立替」であり、給与とは別に処理することがポイントです。
立替金については以下の記事で詳しく述べているので、ぜひ参考にしてください。
関連記事:勘定科目「立替金」とは?仕訳例と出納帳などの帳簿の経理処理を解説
時間外労働について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
関連記事:時間外労働とは?法改正された上限規制内容や計算方法を解説
給与から天引きされる費用を納付する際の仕訳例
給与から差し引かれる税金や保険料は、従業員に代わって企業が納付する必要があります。社会保険料や源泉所得税、住民税、労働保険料など、種類によって仕訳方法が異なるため、それぞれの納付時の処理を正しく理解しておきましょう。
社会保険料
社会保険料は、社会保険制度を支えるために納める保険料の総称です。なお、健康保険と厚生年金、介護保険、雇用保険は会社と従業員が半分ずつ負担します。たとえば、12月の会社負担分45万円を費用として計上する場合、月末時点での仕訳は以下のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
法定福利費 | 450,000円 | 未払費用 | 450,000円 |
翌月、社会保険料全体(従業員天引き分45万円+会社負担分45万円=合計90万円)を普通預金で納付する際は、以下のように処理します。
借方 | 貸方 | ||
預り金 | 450,000円 | 普通預金 | 900,000円 |
未払費用 | 450,000円 |
会社負担分は事前に「法定福利費」で費用化しておけば、正確な期間の損益が認識できます。
社会保険料の計算方法については以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひご参照ください。
関連記事:社会保険料の計算方法を解説!月の給与と賞与に分けて算出
労働保険料
労働保険料は、労災保険と雇用保険を含み、毎年概算額で納付します。たとえば、年度初めに会社負担分の労災・雇用保険料12万円と、従業員負担分の雇用保険料6万円を普通預金から支払った場合の仕訳は、以下のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
前払費用 | 120,000円 | 普通預金 | 180,000円 |
立替金 | 60,000円 |
支払時点では、会社の前払費用と従業員分の立替金として処理します。従業員負担分は後日、給与から天引きして立替金と相殺されます。
また、労働保険料の実際額が確定した時点で、前払費用を「法定福利費」として取り崩す仕訳が必要です。たとえば、20万円分を取り崩す場合は、以下のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
法定福利費 | 200,000円 | 前払費用 | 200,000円 |
労働保険料の勘定科目について詳しくは、以下のページで解説しています。
関連記事:労働保険料の勘定科目は何費?仕訳の例や納付の流れ・経理処理を解説
源泉所得税
源泉所得税は従業員の給与から天引きして国に納める税金で、納期限は原則として翌月10日までです。天引きした税金は「預り金」として処理され、納付時に以下のような仕訳を行います。
借方 | 貸方 | ||
預り金 | 120,000円 | 普通預金 | 120,000円 |
このように源泉所得税は企業の経費ではなく、あくまで「従業員から預かったお金」という扱いになります。金額に関係なく処理の流れは変わらないため、定期的に正確な仕訳を行い、納付漏れがないよう注意が必要です。
預り金については以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
関連記事:【法人向け】所得税の源泉徴収は勘定科目「預り金」で!給与を支払う際の仕訳例
住民税
住民税も源泉所得税と同様に、給与から天引きして会社が代理で納付する「特別徴収」が原則です。たとえば、従業員から控除した住民税が15万円だった場合、納付時の仕訳は以下のようになります。
借方 | 貸方 | ||
預り金 | 150,000円 | 普通預金 | 150,000円 |
住民税は毎年6月から翌年5月までの1年分を月割で納付する仕組みで、市区町村から送付される通知書に基づいて毎月の控除額が決まります。預り金として正確に管理し、期限内に納付を行うことが求められます。
源泉所得税と同じく、企業の損益には影響しない支払項目です。
個人事業主の場合は自分の給与を経費にできる?
個人事業主は、法人と異なり自分自身に支払う給与を必要経費として計上することはできません。これは、所得税の計算において「収入-経費=所得」という形で個人の利益を求めるため、給与での経費処理がそもそも想定されていないことが理由です。
生活費や私的な出費を事業用口座から支払った場合は、「給与」ではなく「事業主貸」という勘定科目を使います。「事業主貸」は資産科目に分類され、確定申告時には貸借対照表に表示されます。
一方で、配偶者や親族を除く第三者の従業員に対して支払う給与は、法人と同様に「給料賃金」や「給与」といった勘定科目で必要経費として計上可能です。給与に関する処理は、誰に支払うものかで大きく扱いが変わる点に注意しましょう。
まとめ
給与に関する勘定科目の使い分けや仕訳処理は、経理業務の中でも特に重要なポイントです。
正社員には「給料手当」や「給与」、役員には「役員報酬」、パートやアルバイトには「雑給」、派遣社員には「外注費」など、雇用形態ごとに適切な勘定科目を使い分けることが求められます。
また、給与から差し引いた社会保険料や税金の納付時には「預り金」「未払費用」「法定福利費」などを活用し、発生主義に基づいた処理を行うことが大切です。
個人事業主の場合は、自分への給与を経費として計上できないため、「事業主貸」を使って処理します。一方で、家族以外の従業員に支払う給与は経費にでき、法人と同様の勘定科目を使用できます。
給与の処理は、企業や個人事業主の正確な収支管理に直結するため、日々の記帳においても仕訳のルールや勘定科目の使い方をしっかりと理解しておくことが重要です。