下請法とは?対象となる条件や親事業者の義務・禁止事項を解説

企業間取引において、資本力に差がある事業者間のトラブルを防ぐため「下請法」が存在します。

下請法は、親事業者が下請事業者に対して不当な取引を行うことを厳格に規制し、発注書面の交付や代金支払期日の設定など具体的な義務を課すことで、取引の公正さを担保する法律です。

この記事では、下請法の概要と目的や、親事業者が押さえるべき「4つの義務」と「11の禁止行為」を解説します。

インボイス制度の概要を知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

関連記事:インボイス制度とは?意味や概要、対象となる事業者への影響を図解でわかりやすく解説

店舗経営の効率化事例まとめ

小売・飲食・宿泊・サービス業と店舗運営をされている企業様が、業務の効率化のためになぜバクラクを選んだのかが分かる資料です。

下請法とは?対象となる条件や親事業者の義務・禁止事項を解説

下請法の概要と目的とは

下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)は、親事業者の優位な立場を利用して下請事業者に不利益を与えることを防ぐために制定された法律です。

主な目的は、親事業者による下請代金の支払い遅延や不当な減額、その他不公正な取引行為を禁止し、取引の公正化を図ることです。これにより、下請事業者の利益を守り、健全な取引関係を維持することを目指しています。

法律では、親事業者に対して発注書面の交付や代金支払い期日の設定、取引書類の作成・保存などの義務を課すとともに、下請事業者への不当な扱いを禁止しています。

中小企業を中心とする下請事業者の立場を守ることが下請法の根本的な狙いです。

参考:e-Gov法令検索「下請代金支払遅延等防止法

インボイス制度について詳しくは以下のページで解説しているので、ぜひ参考にしてください。

関連記事:インボイス制度とは?意味や概要、対象となる事業者への影響を図解でわかりやすく解説

下請法の対象は取引内容と資本金額で決まる

下請法の適用対象は、取引内容と事業者の資本金額の組み合わせで決まります。

取引内容は、主に「物品の製造・修理委託」と「情報成果物作成・役務提供委託」の2種類に分けられ、親事業者と下請事業者では資本金要件が異なります。

下請法における「製造委託」とは、規格、品質、形状、デザイン、ブランドなどを指定し、別の事業者に物品の製造や加工などを委託する行為です。一方「修理委託」は、修理業務の一部を別の事業者に任せることを意味します。

さらに「情報成果物作成委託」とは、プログラムや映像などの制作を第三者に依頼することを指します。「役務提供委託」は、運送やビルメンテナンスなどの各種サービス提供に関して、請け負った役務の一部または全てを他の事業者に委託する形態です。

取引内容の資本金額の対応表は、以下のとおりです。

取引内容

親事業者の資本金

下請事業者の資本金(個人を含む)

物品の製造委託や修理委託を行う場合

3億円超

3億円以下

1千万円超3億円以下

1千万円以下

情報成果物作成委託・役務提供委託を行う場合


※政令で定められる一定の取引は、物品の製造委託や修理委託の場合と同様

5千万円超

5千万円以下

1千万円超5千万円以下

1千万円以下

参考:公正取引委員会「知って守って下請法~豊富な事例で実務に役立つ~

下請法で親事業者に課せられている4つの義務

下請法で親事業者に課せられている義務は、次の4つがあります。

  • 書面を交付する義務
  • 書類の作成・保存義務
  • 下請代金の支払期日を定める義務
  • 遅延利息を支払う義務

それぞれ、詳しく見ていきましょう。

書面を交付する義務

下請法第3条第1項により、親事業者は製造委託等を行った際、必要事項を記載した書面(3条書面)を「直ちに」下請事業者に交付しなければなりません。

書類の郵送やメール添付でも要件を満たしますが、下請事業者が内容を即座に確認できる手段が求められます。メールなどの電子交付の場合は、下請事業者の事前承諾が必要です。

記載必須項目は以下が挙げられます。

  • 事業者情報:親事業者と下請事業者の名称
  • 発注日:製造委託・修理委託等をした日付
  • 委託内容:給付の具体的範囲(「部品Aの切削加工」など)
  • 納品期日・場所:受領日時と場所(役務提供の場合は実施期間)
  • 検査期日:検収が必要な場合の完了期限
  • 代金額:金額または算定式(「単価×数量」など)
  • 支払期日:受領後60日以内の設定が原則
  • 手形条件:手形使用時は金額・満期日
  • 一括決済:金融機関名・貸付可能額・決済期日(該当時)
  • 電子債権:電子記録債権の金額・満期日(該当時)
  • 有償支給品:原材料の品名・数量・対価・引渡期日(該当時)

例外対応については、支払期日未定など「正当な理由」がある項目は未記入でも可能ですが、未記入の理由及び未記入内容が確定する期日を記載しなければなりません。また、確定次第速やかに補充書面を交付する必要があります。

不交付は下請法違反となり、公正取引委員会による指導対象となるので注意しましょう。

書類の作成・保存義務

親事業者は下請事業者への委託内容や代金支払い状況などを記載した書類(電磁的記録を含む)を作成し、取引完了後2年間保存することが義務付けられています。

記載すべき事項は、以下のとおりです。

  • 下請事業者の特定情報(商号・識別番号)
  • 委託日・給付内容(製造物の種類や役務の詳細)
  • 納品日・検収結果(不備があれば修正理由を含む)
  • 代金の額と支払日(変更があれば増減額と理由)
  • 支払方法と遅延利息額(発生時のみ)

下請法に基づく書類の保存期間は2年間ですが、税務関係書類の保存期間は7年間とされています。同一の書類が下請法と税法の両方の保存義務の対象となる場合、より長い保存期間(7年間)を適用することが望ましいです。

下請代金の支払期日を定める義務

下請代金の支払期日は、親事業者が下請事業者から物品や情報成果物を受領した日(役務提供の場合はサービスの提供日)から、60日以内に設定する必要があります。

具体的には、親事業者は「受領日から60日以内」かつ「できる限り短い期間」で支払期日を設定しなければなりません。

たとえば、7月1日に物品を受領した場合、支払期日は8月30日まで(60日以内)に設定しますが、実際は「月末締め翌月20日払い」のように早期に設定することが推奨されます。

検査の有無に関わらず、受領日を起点とする点が特徴です。

支払期日を定めなかった場合、受領日から60日経過した日の前日が自動的に支払期日とみなされます。

遅延利息を支払う義務

親事業者が下請代金の支払いを契約で定めた期日までに行わなかった場合、下請法第3条に基づき、未払い金額に対して年率14.6%の遅延利息を支払う義務が発生します。

この利率は、民法(法定利率)よりも高く設定されており、下請事業者の資金繰り悪化を防ぐための厳格な措置です。

たとえば、100万円の代金を30日間延滞した場合の計算式は以下のとおりです。

100万円×14.6%×30日÷365日=12,000円

これが1年未満の短期間でも日割り計算されるため、親事業者は迅速な支払いが求められます。

遅延利息の発生は「支払期日の翌日から自動的に開始」され、親事業者が故意・過失を問わず適用されます。

参考:公正取引委員会「親事業者の義務

下請法で親事業者に定められた11の禁止事項

親事業者には、以下11の禁止事項があります。

  1. 受領拒否の禁止
  2. 下請代金の支払遅延の禁止
  3. 下請代金の減額の禁止
  4. 返品の禁止
  5. 買いたたきの禁止
  6. 購入・利用強制の禁止
  7. 報復措置の禁止
  8. 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止
  9. 割引困難な手形の交付の禁止
  10. 不当な経済上の利益の提供要請の禁止
  11. 不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止

詳しく見ていきましょう。

受領拒否の禁止

親事業者が下請事業者に発注した物品等の受領を不当に拒否する行為は、下請法第4条第1項第1号で明確に禁止されています。

具体的には、下請事業者に瑕疵や納期遅れなどの責任がないにも関わらず、物品の受け取りを拒んだり、発注の取消し・納期延期を理由に受領を拒否したりする行為が該当します。

違反行為となるのは、親事業者が一方的に発注内容を変更した場合や、当初の契約条件と異なる理由で受領を拒むケースなどです。

ただし、下請事業者側に明らかな瑕疵がある場合や、契約納期を超過したことで商品価値が失われた場合など「下請事業者の責に帰すべき理由」がある場合は例外として認められます。

下請代金の支払遅延の禁止

親事業者は下請事業者に対し、物品の受領日(役務提供の場合は提供完了日)から60日以内に支払期日を設定し、その期日までに代金を全額支払わなくてはなりません。

親事業者が「資金不足」を理由に支払期日を一方的に延長する、受領後60日を超えて分割払いを強要する、といったケースは違反です。また、検収未完了を理由に支払を保留したまま60日を経過させるケースも支払遅延に該当するので注意しましょう。

支払遅延が発生した場合、未払金額に対し年率14.6%の遅延利息が60日経過後の翌日から実際の支払日まで加算され、さらに公正取引委員会による指導や勧告の対象となる可能性があります。

下請代金の減額の禁止

親事業者が下請事業者に対して、発注後に下請代金を減額する行為は原則禁止されています。下請事業者は立場が弱いため、減額要求を拒否できずに不利益を被るからです。

具体的には、発注時に合意した代金を、下請事業者に責任がないにも関わらず後から減らす行為が該当します。たとえば、消費税分の不払いや振込手数料の差し引き、合意後の単価改定の遡及適用などは、減額の名目や方法を問わず違反です。

仮に「リベート」や「協賛金」などの名目で実質的な減額を行った場合や、合意があっても下請事業者の責任がない理由による減額は違反に該当します。

例外として、納品物の瑕疵や納期遅れなど下請事業者に明らかな責任がある場合に限り減額が認められますが、その際も客観的根拠が必要です。

返品の禁止

親事業者が、発注した物品・成果物を受領した後、下請事業者の責めに帰すべき理由(契約内容との不一致や瑕疵など)がないにも関わらず返品するのは禁じられています。

親事業者と下請事業者の間で返品の合意があった場合でも、下請事業者に落ち度がなければ違反です。

親事業者が「在庫過多」や「需要減少」を理由に一方的に返品すると、下請事業者は他社への転売が困難な「一品物」を抱えるリスクが生じます。返品によって下請事業者が不良在庫や資金繰り悪化などの不利益を被ることがないように、返品が禁止されているのです。

下請事業者が契約違反や品質不良などの責任を負う場合は返品が認められますが、その判断基準は厳格で「受領後6カ月以内の瑕疵発見」などの限定的な条件が課されます。

買いたたきの禁止

親事業者が下請事業者に対して「通常支払われる対価」よりも著しく低い代金を不当に定める、いわゆる「買いたたき」は禁止です。

「通常支払われる対価」とは、同種の取引における市場価格や過去の取引実績を基準とし、労務費・原材料費などのコストを適正に反映した金額を指します。

たとえば、同業他社が支払う水準や、当該下請事業者との従前の取引価格を大幅に下回る代金を設定すると、買いたたきに該当する可能性があります。

人件費・原材料費・エネルギーコストが急騰する現状では、下請事業者の要望に関係なく親事業者が価格見直しの協議を主導すべきです。

購入・利用強制の禁止

親事業者が、正当な理由なく自社が指定する商品・原材料・サービスを下請事業者に強制的に購入・利用させることは禁止です。

たとえ親事業者が「任意依頼」と主張しても、下請事業者が実質的に拒否できない状況であれば、下請法違反とみなされます。つまり、形式的な任意性ではなく、取引上の力関係が強制を生じさせる実態が判断基準です。

禁止対象には、原材料や部品だけでなく、保険、リース、インターネットプロバイダーなどのサービスも含まれます。​また、親事業者やその関連会社が取り扱う商品やサービスに限らず、親事業者が指定する商品等も対象です。

報復措置の禁止

下請事業者が親事業者の違反行為を公正取引委員会や中小企業庁に報告したことを理由に、親事業者が下請事業者に対して取引停止や発注数量の削減などの不利益な取り扱いをすることは禁止です。

不利益な取り扱いには、取引条件の悪化など間接的な圧力も含まれ、違反が認められた場合、公正取引委員会から勧告や企業名公表などの措置が行われます。

たとえば、下請事業者から代金未払い(60日超)の指摘を受けたことを理由に、親事業者が「信頼関係の毀損」を主張し契約を一方的に解除するケースが挙げられます。

さらに、下請法違反の勧告・公表を受けた後、企業イメージ低下分を金額換算し、今後の支払代金から差し引く行為も違反です。

有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止

親事業者が下請事業者に有償で原材料等を支給する場合、製造完了後の下請代金支払期日よりも前の段階で原材料代金を支払わせたり、下請代金から相殺したりする行為は禁止されています。

たとえば、親事業者が原材料費を下請代金支払い前に立て替えを要求することは、下請事業者の資金繰りを圧迫し、取引上の不均衡を招くため違反です。

割引困難な手形の交付の禁止

下請法は、親事業者が下請代金の支払い手段として「一般の金融機関で割引が困難な手形」を交付することを禁止しています。

たとえば、手形の支払期日が著しく遅い、または振出人の信用力が低く金融機関が割引を拒むような手形を交付した場合などです。

業界の商慣行により、支払期日を決めている方もいるでしょう。

しかし、2024年の下請法の指導基準改正により、親事業者が支払いに60日を超える手形を使用した場合「割引困難な手形の交付」とみなされる可能性が高くなりました。60日を超える手形は交付しないようにしましょう。

不当な経済上の利益の提供要請の禁止

親事業者が下請事業者に対し、下請代金の支払いとは別に、金銭・役務・その他経済上の利益を不当に提供させる行為は禁止されています。

具体的には、協賛金や寄付金の名目での金銭要求、自社業務のための従業員派遣の強要、無償での物品提供の要請などです。

たとえば、大規模小売業者が配送委託先の運送業者に「店舗の営業支援」として従業員の無償派遣を求めるケースが挙げられます。

また、親事業者が住宅販売部門の設計図作成を下請事業者に委託する過程で、広告宣伝費の確保を目的に「協賛金」の提供を求めるケースも違反です。

不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止

親事業者が一方的に発注内容を変更したり、受領後の作業を追加・やり直させたりする際に、下請事業者に負担を強いることは禁じられています。

具体的には、発注後に親事業者が契約内容を変更・取消しするケースや、納品済みの成果物について下請事業者に責任がないのに追加作業や修正を要求するケースです。

変更や、やり直しを要求する場合、親事業者はその追加費用を全額負担しなければなりません。たとえば、製品の仕様変更やデザイン修正を指示した際、下請事業者が新たに要した材料費や人件費を支払わない行為は違反です。

ほかにも、親事業者がユーザーとの打合せで書面確認を怠り、下請事業者の確認要求にも応じず指示を曖昧にしたようなケースなどがあるでしょう。この場合、下請事業者がやむを得ず独自判断で進めた作業を「仕様違反」として無償修正を要求しているため違反です。

参考:公正取引委員会「親事業者の禁止行為

下請法に違反するとどうなる?

公正取引委員会が調査を行い、違反が確認されると、是正勧告や公表処分が科されます。

勧告内容には「下請代金の返還」「支払遅延利息の追加支払い」などが含まれます。公表処分になると企業名が公式サイト等で周知されるため、社会的信用の失墜や取引先からの評価低下は免れません。

さらに、刑事告発されることもあるでしょう。具体的には、親事業者が発注書(下請法第3条書面)の交付義務や取引記録の作成・保存義務を怠った場合、刑事罰として50万円以下の罰金が科されます。

公正取引委員会は、親事業者が自発的に下請法違反を申告した場合、勧告や公表処分を免除する方針を採用しています。これは、過去1年分の不当減額分の返還や遅延利息の支払いなどの是正措置を講じることが条件です。

万が一不正に気付いた場合は、すみやかに対応しましょう。

違反ケースについて、さらに知りたい方は、下記のリンクから確認できます。

関連記事:インボイス制度で注意すべき下請法とは?違反となるケースを解説

下請事業者からの請求書受領は「バクラク請求書受取」で効率化

下請法は、親事業者が資本金規模や取引内容に応じて適用され、下請事業者を不当な取引から保護する法律です。対象となるのは「製造・修理委託」と「情報成果物作成・役務提供委託」の2類型で、親事業者は発注書面の交付や60日以内の代金支払いを義務付けられます。

禁止事項は受領拒否・代金減額・報復措置など11項目におよび、違反時は公正取引委員会の勧告や罰則(最高50万円)が科されます。

下請事業者からの請求書受領には、請求書受取システムの導入を検討しましょう。「バクラク請求書受取」なら、下請法で求められる「確実な書面管理」と「支払期日遵守」を強力にサポートします。

また「請求書受領機能」は、証憑受領から仕訳・振込データ出力までを完全自動化できます。手入力ゼロで工数削減と入力ミスを防止し、インボイス制度対応により税区分の目視確認や選択作業も不要です。

無料トライアルもご用意していますので、ぜひご検討ください。

AIが手入力をなくし月次決算を早期化「バクラク請求書受取」

紙の請求書もPDFファイルも100枚まで一括アップロードでき、金額や摘要、取引先情報などを瞬時にAIが読み取ります。読み取り内容から取引データが学習され、次回以降の請求時に自動で仕訳を入力補完。また、郵送やメールで届く請求書ファイルを「受取状況レポート」でリアルタイムに把握でき、受領や支払いの漏れを削減します。インボイス制度への対応もスムーズに行なって頂けます。