インボイス制度で注意すべき下請法とは?違反となるケースを解説

2023年10月1日からインボイス制度が始まり、多くの事業者がその影響を受けました。中でも、下請法においては未だ慎重な対応が求められている状況です。

親事業者は、インボイス制度への対応を急ぐあまり下請法違反を犯さないよう留意して取引をしなくてはなりません。

本記事では、下請法の概要やインボイス制度で注意すべき点、違反とみなされるケース、下請法違反の防止策を解説します。透明性のある取引を継続するためにもぜひ要点を押さえておきましょう。

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インボイス制度で注意すべき下請法とは?違反となるケースを解説

下請法の概要

下請代金支払遅延等防止法(下請法)は、商品やサービスの発注者である親事業者が、受注者の下請事業者に対し、不当な取引条件の押し付けを防ぐために制定された法律です。

特に、資本金が一定額以下の法人や個人事業主が対象となり、下請事業者の利益を保護することを目的としています。また混同しがちな法律に、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)があります。

独占禁止法は、企業間の公正な競争を維持するための法律です。市場全体の競争を確保することが目的であるのに対し、下請法は発注者と受注者の取引関係に特化しており、特に立場の弱い下請事業者を守るための法律として機能しています。

つまり、下請法は独占禁止法を補完する位置づけであるといえるでしょう。

対象となる取引

下請法の対象となる取引には、以下4つが挙げられます。

  • 製造委託
  • 修理委託
  • 情報成果物作成委託
  • 役務提供委託

製造委託は、商品の販売や製造を行う業者が、商品の規格や品質・形状・デザイン・ブランドなどを指定し、他の事業者に対し製造や加工を委託することです。物品には建物などの不動産は含まれません。動産のみが対象です。

修理委託は、物品の修理を請け負う事業者が、修理業務を他の事業者に丸々委託したり、一部分のみを委託したりする取引です。

情報成果物作成委託は、情報成果物の作成や提供を行う事業者が、成果物の作成業務を他の事業者に委託する取引をいいます。

情報成果物の代表的な例として、ゲームソフトや会計ソフトなどのソフトウェアや、テレビ番組やCMなど映像コンテンツ、広告や設計図などのデザインが挙げられます。

また、商品の付属品や内蔵品・設計・デザインに関連する作成物も対象です。

役務提供委託は、貨物運送サービスやビル・自動車メンテナンス、コールセンターなどの顧客サポートを営む事業者が、自社の役務を他の事業者に委託する取引です。ただし、建設業を生業とする事業者による建設工事はこれに含まれません。

 これらの取引において、下請法では規制の対象となります。

親事業者・下請事業者の定義

下請法では、取引の内容及び資本金規模によって、親事業者と下請事業者の関係が決まります。またその際は、取引内容との組み合わせによって適用の可否も変動するため注意が必要です。

<親事業者の定義>

  • 資本金3億円超:製造・修理・一部の情報成果物作成・一部の役務提供委託企業
  • 資本金1,000万円超~3億円以下:資本金1,000万円以下の企業に委託する企業(※)
  • 資本金5,000万円超:その他情報成果物作成・その他役務提供委託企業

(※)対象取引は、製造・修理・一部の情報成果物作成・一部の役務提供委託

<下請事業者の定義>

  • 資本金3億円以下:資本金3億円超の事業者から委託を受ける企業(※)
  • 資本金1,000万円以下:資本金3億円以下の事業者から委託を受ける企業(※)
  • 資本金5,000万円以下:資本金5,000万円超の事業者からその他情報成果物作成・その他役務提供を受ける企業

(※)対象取引は、製造・修理・一部の情報成果物作成・一部の役務提供委託

参考:e-Gov法令検索「下請代金支払遅延等防止法 第二条第7項、第二条第8項

親事業者の義務と禁止事項

下請法では、親事業者に対して4つの義務・11の禁止行為を定めています。

<義務>

義務内容概要
書面の交付義務
  • 発注時に契約条件を記した書面を交付する
取引記録の作成・保存
  • 取引内容や代金に関する書類を作成する
  • 2年間保存する
支払期日の設定
  • 下請代金の支払期日を事前に設定する
  • 物品・成果物の受領から60日以内に定める
遅延利息の支払
  • 支払期日を過ぎたら遅延利息を支払う
  • 遅延利息は未払金×年率14.6%

<禁止事項>

禁止事項概要
受領拒否
  • 商品やサービスの受領を不当に拒否する
  • 一方的な発注の取り消し
下請代金の支払遅延
  • 合意した期日・受領日から60日以内までに代金を支払わない
下請代金の減額
  • 下請事業者が請求された代金を不当に減額する
返品の強要
  • 受領後の一方的な返品
  • 受領後6カ月以上経過しての返品(不良時)
買いたたき
  • 市場価格よりも著しく低い価格での取引
購入・利用の強制
  • 指定した商品・サービスの購入、利用の強要
報復措置
  • 下請事業者が法的措置を取った場合の報復行為
有償支給原材料等の対価の早期決済
  • 仕入れ材料の代金を不当かつ早期に請求する
割引困難な手形交付
  • 現金化が困難な手形での支払い
不当な給付内容の変更・やり直し
  • 発注後の一方的な仕様変更
  • 受領後のやり直しや追加作業
不当な経済上の利益の提供要請
  • 正当な理由なく金銭的な負担を強いる

上記事項を遵守すると、親事業者は下請事業者との公正な取引関係を維持でき、健全なビジネス環境を構築できます。

インボイス制度で注意すべき下請法違反

課税事業者が免税事業者と取引する場合、インボイス(適格請求書)の発行がないため仕入税額控除を受けられません。その結果、課税事業者の税負担は増加します。

親事業者が課税事業者で、下請事業者が免税事業者の場合であれば、親事業者が以下のような行動をする可能性があります。

  • 値下げの要請や取引打ち切りの示唆
  • 受注者にインボイス発行事業者になるよう登録を要請

しかし、インボイス発行事業者でないことを理由とした、取引条件の高圧的な変更は認められません。上記のような親事業者の行動は、下請法違反に該当する可能性があるため注意が必要です。

インボイス未登録者との取引時の注意点は、以下の記事をお読みください。

関連記事:インボイス未登録事業者との取引における消費税や支払の注意点

仕入税額控除の仕組みや要件は、以下の記事で解説しています。

関連記事:消費税の「仕入税額控除」とは? 計算方法・仕組み・要件をわかりやすく解説

インボイス制度で下請法違反となるケース

インボイス制度で、下請法違反となる具体的なケースを解説します。詳細を理解し、下請事業者に対する不適切な行為を回避しましょう。

増額税額分の報酬減額を強制する

親事業者が下請事業者の消費税相当額を報酬から減額することは、禁止事項の「下請代金の減額」に該当します。取引条件の変更は双方の協議が必要で、親事業者の優位な立場を利用した減額は認められません。

減額に応じない下請けからの商品を受け取り拒否する

親事業者が下請事業者に消費税相当額の減額を要求し、応じない場合に商品の受領拒否や返品をすることは、下請法の禁止事項である「受領拒否」や「返品」に抵触します。下請事業者側に契約不履行などの正当な理由がない限り、合理的根拠のない受領拒否や返品は避けるべきです。

消費税増額した分を協賛金や役務で負担させる

親事業者は免税事業者である下請事業者に対し、消費税相当額の協賛金支払や無償の役務提供を強要してはいけません。強要は、下請法の禁止事項である「不当な経済上の利益の提供要請」に該当する可能性があります。

消費税増額した分の商品購入を強制する

親事業者が免税事業者である下請事業者に対し、消費税相当額に相当する商品を強制的に購入させる行為は、下請法の禁止事項である「購入・利用強制」に該当します。

取引の一方的な停止をする

インボイス制度の導入を理由に、親事業者は、免税事業者である下請事業者との取引を一方的に停止してはいけません。強制的な取引停止は、下請法の禁止事項である「不当な給付内容の変更」や「報復措置」に該当する可能性があります。

課税事業者への登録を強制する

受注者が免税事業者に対し、課税事業者になることを強制する行為は独占禁止法違反です。下請事業者が課税事業者に変わった後、値上げ交渉に応じず親事業者が一方的に価格を据え置く行為は、下請法の禁止事項である「買いたたき」とみなされる恐れがあります。

下請法に違反した場合に科される措置

下請法違反を犯した親事業者は、まず公正取引委員会から是正勧告を受けます。勧告に従わない場合、会社名と違反事実の概要が公表され、社会的信用を大きく損ないかねません。

違反行為が悪質な場合、最高50万円の罰金が科される可能性があります。さらに、下請事業者から損害賠償請求などの民事訴訟を起こされるリスクも存在します。

これらの措置は、親事業者の財務や評判に深刻な影響を与えるでしょう。法令を遵守し、下請事業者との公正な取引関係の維持に努めることが重要です。

インボイス制度で下請法違反を防ぐには?

インボイス制度で下請法違反を防ぐには、双方の適切な交渉が必要です。下請法違反を防ぐ方法を解説します。

一方的・強引な要求をしない

インボイス制度下で下請法違反を防ぐには、下請事業者に対する強引な要求を避けましょう。課税事業者への転換依頼や価格引き下げの交渉自体は、下請法にて禁止されてはいません。しかし、親事業者の優位な立場を利用した一方的な要求や強制は問題となります。

交渉をしっかり行う

インボイス制度下での下請法違反を防ぐには、双方の適切な交渉が不可欠です。一方的な要求ではなく、双方の立場を考慮しながら丁寧にすり合わせを行いましょう。十分な協議を重ね、お互いが納得できる解決策を見出せると、下請法違反のリスクを軽減できます。

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インボイス制度への対応時には下請法についても理解を深め、違反を避けることが不可欠です。親事業者が下請事業者に対して、課税事業者への転換や価格引き下げを一方的に強制すると、罰則の対象となる可能性もあります。

違反を防ぐためにも、双方で十分な協議を行いながら取引を進めるようにしましょう。下請事業者に応じた請求書をスムーズに作成したいのであれば、バクラク請求書発行がおすすめです。

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