債権放棄とは?貸倒損失にできる要件やメリット・デメリット、手続き方法を解説
- 記事公開日:
- 最終更新日:2026-07-02
- この記事の3つのポイント
- 債権放棄は債権者が債権を回収する権利を放棄することで、債務者は返済義務がなくなる
- 貸倒損失を計上する場合は、事前に要件を理解し、必要な手続き・書類を準備する必要がある
- 債権放棄は債権者のみの意思表示で行えるが、債権を回収できなくなるため慎重な判断が必須
債権放棄とは、保有する債権を放棄することを指します。回収可能性が低い債権を整理することで、早期に資金繰り改善に向けて動けます。
ただし、債権放棄には債権者・債務者ともにメリット・デメリットがあるため、行う場合は慎重な判断が欠かせません。
本記事では、債権放棄の概要と要件、メリット・デメリットを解説します。手続き方法も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
債権放棄とは?貸倒損失にできる要件やメリット・デメリット、手続き方法を解説
債権放棄とは
債権放棄とは、債権者が保有している債権の全部または一部を放棄することです。民法上は「免除」と呼ばれ、成立すると債務者の返済義務は消滅します。民法519条では、債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権が消滅するとされています。
債権放棄が行われる具体的なケースは以下のとおりです。
- 債務者の経営状況が悪化し、返済が困難になった場合
- 債権回収にかかる時間や費用が債権額を上回る場合
- 取引先の事業再建を支援する目的で行う場合
債権放棄を行うと、債務者は返済義務から解放されますが、債権者は債権を回収できなくなるほか、法律や税務上の影響もあるため、慎重な判断が必要です。
参考:e-Gov 法令検索「民法 519条」
債権について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
関連記事:債権とは?似た用語との違いや契約種類、債務者への法的手段を解説
債権放棄と債務免除の違い
債権放棄と債務免除は、同じ免除行為をどちらの視点から見るかで呼び方が異なります。
債権者側の視点では「債権放棄」、債務者側からは「債務免除」と呼ばれます。どちらも債権者が債務者の返済義務を免除し、債権を消滅させる行為のことです。
債権放棄と債権譲渡の違い
債権譲渡とは、債権者が保有する債権を第三者へ譲り渡すことを指します。債権を放棄する「債権放棄」とは異なり、債権譲渡は「債権そのもの」は残るため、債務者の返済義務はなくなりません。
たとえば、債権譲渡を行った場合は、譲受人となった第三者が債務者に対して債権回収を行います。両者は債権の扱い方が大きく異なるため、違いを正しく理解しておくことが大切です。
債権放棄とDESの違い
DES(Debt Equity Swap)とは、企業の債務を株式へ転換する手法です。債権を債務者企業の株式へ振り替え、自己資本を増やす仕組みです。「債務の株式化」ともいわれ、主に企業の再建を図る際に用いられます。
債権放棄では債権が消滅しますが、DESでは債権と株式を交換するため、債権者は株主として企業の成長による利益を期待できます。また、債務者は負債を株式に転換することで、返済負担や資金ショートなどのリスク軽減が可能です。
ただし、債務者企業が倒産した場合は取得した株式の価値が失われる可能性があります。そのため、債権者には一定のリスクがある点に注意が必要です。
債権放棄で貸倒損失の計上が認められるケース
債権放棄をすると、貸倒損失として計上できる場合があります。
ただし、貸倒損失には要件があり、すべてのケースで計上できるわけではありません。ここでは、貸倒損失の計上が認められるケースを紹介します。
参考:国税庁「No.5320 貸倒損失として処理できる場合」
貸倒損失についてより詳しく知りたい方は、以下も参考にしてください。
関連記事:貸倒損失とは?処理できる要件と仕訳方法、貸倒引当金との違いを解説
法的手続きや協議による合意によって債権が消滅した場合
法的整理や第三者のあっせん等により、合理的基準で切り捨てられた債権は、貸倒損失の対象となる場合があります。
具体的なケースは、以下のとおりです。
- 会社更生法による更生計画認可決定に基づき債権が切り捨てられた場合
- 民事再生法による再生計画認可決定に基づき、債権の全部または一部が切り捨てられた場合
- 会社法の特別清算手続きで債権が切り捨てられた場合
- 債権者集会の決定や公的機関・金融機関などのあっせんにより、合理的な基準で債権が切り捨てられた場合
- 債務超過が相当期間継続し、弁済を受けられない債務者に対して、書面で債務免除を通知し、債権が消滅した場合
ただし、単に任意で債権を放棄しただけでは貸倒損失として認められないこともあります。貸倒損失として認められるには、合理性や証拠書類の保存が重要です。
債権の全額が回収不能となった場合
債務者の資産状況や支払能力などが理由で、債権の全額回収が不可能であることが明らかな場合も、貸倒損失として処理できる可能性があります。
たとえば、債務者が事業を停止し資産が存在しない場合や、破産手続きの結果として配当が見込めない場合などが該当します。
ただし、単純な支払遅延だけでは貸倒損失は認められません。破産手続開始決定通知書だけでなく、債務者の資産状況や配当見込みなどを確認し、全額回収不能であることを示す資料を保存しておきましょう。
なお、担保物があった場合は、担保物を処分したあとでなければ、損金経理はできません。
また保証人がいる場合は、保証人の資産状況や支払能力を勘案し、債権が回収不能かの判断も必要です。
一定期間取引停止後に返済がない場合
継続的取引を行っていた債務者との取引停止後、一定期間が経過すると貸倒処理できる可能性があります。
具体的には、最後の弁済期や弁済時などのうち、最も遅い時から1年以上経過した場合です。この場合、売掛金や受取手形などの売掛債権から、備忘価額を控除した残額の損金経理ができます。
形式上の貸倒れには、別の取扱いもあります。同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少ない場合、支払いを督促しても弁済がなければ、貸倒処理できる可能性があります。
なお、いずれの取扱いでも、売掛債権に担保物がある場合は対象外です。対象となるのは、売掛金や受取手形などの売掛債権で、貸付金などは含まれません。
債権回収のための催促や連絡を行った記録も残しておく必要があります。
貸倒損失として処理できるかは、法律上・事実上・形式上の貸倒れのどれに該当するかで要件が異なります。判断に迷う場合は、税理士などの専門家に相談しましょう。
債権放棄のメリット
債権放棄には、債権者・債務者ともにさまざまなメリットがあります。それぞれが得られるメリットは以下のとおりです。
債権者側 | 債務者側 |
|---|---|
・貸倒損失で損金算入できれば税負担の軽減につながる ・督促などの管理負担を軽減できる ・取引先との関係構築を図れる | ・債務の返済義務が消滅し、経営改善を図れる ・法務トラブルを回避できる |
債権を貸倒損失として処理できれば、税負担の軽減効果が期待できます。また、督促や回収業務にかかる事務負担や管理コストを削減できる点もメリットです。
一方、債務者側は返済義務がなくなることで、経営改善を図れます。債務負担から解放され、ストレスを軽減し、事業再建や資金繰り改善に集中しやすくなるでしょう。また、返済を巡る訴訟や差押えなどの法的トラブルを回避できる可能性もあります。
債権放棄のデメリット
債権放棄には、債権者・債務者ともに理解しておくべきデメリットも存在します。具体的なデメリットは、以下のとおりです。
債権者側 | 債務者側 |
|---|---|
・資金の回収ができなくなる ・資金繰りや財務状況が悪化する可能性がある ・債権放棄の手続き負担が生じる | ・金融機関の与信判断などに影響が出る可能性がある ・債務免除益が課税対象となり、税負担が増加する |
債権者側の大きなデメリットは、本来回収できるはずの資金を回収できなくなることです。特に、債権額が大きい場合は資金繰りや財務状況の悪化につながる可能性があるため、慎重な判断が欠かせません。
また、貸倒損失として認められるためには各種資料の準備や手続きが必要となり、一定の負担が生じる点も理解しておく必要があります。
債務者側には、債務免除を受けた事実が信用情報や取引先評価に影響し、将来的な融資や資金調達が困難になるというデメリットがあります。また、債務者が法人の場合、免除された債務額は原則として債務免除益となり、課税対象となる可能性がある点にも注意が必要です。
債権放棄の手続きの手順
ここでは、債権放棄の手続きの手順を解説します。
1.債務者へ支払いの催促をする
債権放棄を行う場合は、必要に応じて、事前に債務者に対して支払いの催促を行います。貸倒損失として処理するには、該当する類型ごとの要件を確認し、回収不能性や債権放棄の合理性を説明できる資料を整えることが必要です。
回収できない事情や、債権放棄を行う合理的な理由の説明ができない場合は、税務上「寄附金」とみなされる可能性があります。そのため、債務者の財務状況や回収見込み、債権放棄に至った経済合理性を説明できる資料を保存しておくことが重要です。
債務者への支払い請求について知りたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
関連記事:債権者が支払いを請求するには?具体的な流れや法的措置など詳しく解説!
2.債務者の財務状況や経営状況の調査を行う
債権放棄を行う際は、債務者の財務状況や経営状況を調査することも重要です。債務者に支払能力があるにもかかわらず、意図的に支払いを拒否している場合は、貸倒損失として認められない可能性があります。そのため、本当に回収不能な状態か確認することが重要です。
調査方法は、以下のようなものが挙げられます。
- 決算書やIR情報の確認
- 登記情報の調査
- 弁護士への相談
必要に応じて裁判所の手続きも利用するなど、情報収集を徹底しましょう。
3.債権放棄通知書を作成する
債権放棄を決定したら、債権放棄通知書を作成します。通知書の記載項目は、以下のとおりです。
- 債権者の名称・住所
- 債務者の名称・住所
- 作成日
- 債権放棄を行う旨
- 放棄する債権の内容
- 放棄対象金額
- 債権発生の経緯
- 債権者の署名または記名押印
債権放棄通知書は、債権者が債権放棄の意思表示を行ったことを証明する重要な書類です。決まった様式はないものの、内容に漏れや誤りがないよう慎重に作成しましょう。
4.内容証明郵便で送付する
債権放棄は債権者による意思表示によって成立するため、その事実を客観的に示せる証拠を残すことが重要です。
そのため、作成した債権放棄通知書は、内容証明郵便で送付するのがよいでしょう。内容証明郵便を利用することで「いつ・誰が・誰宛てに、どのような内容を送付したのか」を証明できます。
ただし、内容証明郵便で債権放棄通知書の内容が真実であることまでは証明できない点には留意しましょう。
なお、書面は通常3部作成します。一部は内容文書として債務者へ、謄本は、債権者と郵便局でそれぞれ保管します。将来的な税務調査などに備え、送付記録もあわせて保存しておきましょう。
5.必要な書類の保管をする
債権放棄後は、関連書類を適切に保管する必要があります。保管すべき主な書類は、以下のとおりです。
- 債権放棄通知書の控え
- 内容証明郵便の送付記録
- 催促状や督促メールの記録
- 債務者の財務資料
- 取引履歴や契約書
- 回収活動の記録
上記は、貸倒損失の要件を満たしていることを説明する際に根拠となる大切な資料です。税務調査への対応も考慮し、一定期間保管しておきましょう。
債権回収が見込める場合の対策
債権回収が見込まれる場合は、安易に債権放棄を選択するべきではありません。まずは債務者と密にコミュニケーションをとり、分割払いや返済スケジュールの見直しなどを提案することが重要です。協議で解決できれば、取引関係を維持しながら債権回収を進められます。
話し合いの場を設けても支払いが行われない場合は、仮差押えなどの民事保全手続きや、訴訟による法的措置を検討する必要があります。判決や支払督促を取得できれば、裁判所を通じた強制執行によって財産の差押えが可能です。
なお、債権には消滅時効があります。一般的な債権の請求権は、債権者が請求できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年で消滅します。回収可能性がある場合は、時効を迎える前に適切な対応を進めましょう。
こちらの記事では、長期滞留債権について解説しています。債権を放置するリスクや回収方法なども紹介しているので、ぜひご覧ください。
関連記事:長期滞留債権とは?リスクや回収方法・発生させないための対策を解説
債権放棄に関するよくある質問
ここでは、債権放棄に関するよくある質問にお答えします。
債権放棄をするとどうなりますか?
債権放棄を行うと、債務者の返済義務は消滅します。債権者による免除の意思表示で債権そのものがなくなるため、債務者は返済する必要がありません。
一方で、債権者は債権回収を行う権利を失います。そのため、回収可能性や税務上の影響などを十分に検討したうえで、慎重に判断することが重要です。
放棄済みの債権を回収できますか?
一度正式に債権放棄を行った債権は、原則として回収できません。そのため、債権放棄を実施する前に、債務者の財務状況や資産状況を十分に調査することが大切です。
回収可能性が残っている場合は、専門家に相談しつつ、法的措置や分割返済など他の選択肢も検討しましょう。
債権放棄は一方的にできますか?
債権放棄は民法上の「免除」に該当し、債務者の同意は必須ではありません。そのため、債権者による一方的な意思表示で行うことができます。
一方で、債務者から債権者に対して債権放棄を依頼したり交渉したりすることは可能です。債務者の依頼だけで債権放棄は成立せず、債権者が免除の意思表示をすることで成立します。
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債権放棄を行うと、債権者は債権を手放す代わりに、税負担や督促をはじめとする管理負担の軽減を図れます。また、貸倒損失として計上できれば、財務状況を明確にし、経営の正確な実態を把握できるようになるでしょう。
ただし、債権放棄は一度成立すると、原則として債権を回収できなくなるため、慎重な調査と判断が欠かせません。
また、少しでも回収可能性が見込めるのであれば、債務者との協議を重ねたり、適切な債権管理を行ったりして、債権回収を目指すのも一つの手です。
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