インボイス制度の経過措置における80%控除とは?適用要件や計算方法

2023年10月1日に開始したインボイス制度によって、仕入税額控除を受けるには原則として適格請求書の保存が必要となりました。とはいえ、インボイス制度では一定期間の経過措置が設けられています。経過措置では適格請求書がなくても、時期別に80%・50%の仕入税額控除が可能です。

この記事では、80%の控除を中心に経過措置について詳しく解説します。ぜひ参考にしてください。

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インボイス制度の経過措置における80%控除とは?適用要件や計算方法

インボイス制度の経過措置における80%控除とは?いつまで適用?

インボイス制度では適格請求書(インボイス)の交付を受け、保存することで仕入税額控除が適用されます。事業者が適格請求書を発行するためには、税務署によって適格請求書発行事業者の登録を受ける必要があります。免税事業者は登録ができないため、適格請求書の発行ができません。そのため、免税事業者との取引は仕入税額控除の対象外となります。

ただし、インボイス制度では6年間の経過措置が設けられており、期間中は適格請求書がなくても一定割合の仕入税額控除を受けられます。2023年10月1日から2026年9月30日は80%、2026年10月1日から2029年9月30日は50%の控除が可能です。2029年10月1日以降は適格請求書が保存されていなければ、仕入税額控除が適用されません。

インボイス制度の経過措置における80%控除の適用を受けるための要件

インボイス制度の経過措置で80%控除の適用を受けるには、必要事項が記載された帳簿・請求書等の保存が必要です。それぞれ解説します。

帳簿

インボイス制度における経過措置を適用するには、区分記載請求書保存方式と同様の事項に加え、経過措置を受ける旨の記載が必要です。区分記載請求書保存方式はインボイス制度以前、つまり2023年9月30日まで採用されていた制度を指します。帳簿の具体的な記載事項は下記のとおりです。

  • 取引相手の氏名(または名称)
  • 取引を行った年月日
  • 取引の具体的な内容
  • 取引の対価額

取引の内容では具体的な商品・役務の記載が求められます。併せてインボイス制度の経過措置を適用する旨を記載しなくてはなりません。

請求書等

インボイス制度で経過措置の適用を受けるには、必要事項を記載した帳簿とともに請求書等の保存が必要です。記載すべき事項は区分記載請求書保存方式と同様となります。請求書等の具体的な記載事項は下記のとおりです。

  • 作成者の氏名(または名称)
  • 取引年月日
  • 取引の具体的な内容
  • 税率ごとに合計した税込価格
  • 交付相手の氏名(または名称)

取引の内容では帳簿と同様に、具体的な商品・役務の記載が求められます。取引の対象が軽減対象品目に該当する場合は、軽減対象資産の譲渡である旨も併せて記す必要があります。

※参考:経過措置 | 国税庁

インボイス制度の経過措置における80%控除の計算方法・計算例

インボイス制度の経過措置で80%控除を受けるにあたっては、計算の仕方を把握しておきましょう。インボイス制度の経過措置に関して、計算方法・計算例を解説します。

計算方法

インボイス制度の経過措置を適用する際は、計算方法について積み上げ計算・割り戻し計算の2通りから選択できます。積み上げ計算は消費税額などを積み上げて計算する方法、割り戻し計算は期末にまとめて消費税の課税処理を行う方法です。控除では積み上げ計算の採用が原則となっています。ただし、売上税額で割り戻し計算を選択しているなら、仕入税額に関しても割り戻し計算を採用可能です。

積み上げ計算では仕入の際に、取引対価額に「110分の7.8」を乗じて、その後「100分の80」を乗じます。計算結果に1円未満の端数があるなら、切り捨てまたは四捨五入してください。仕入が軽減税率の対象となる場合は、「110分の7.8」の代わりに「108分の6.24」で計算します。

割り戻し計算では仕入にかかった取引対価額の合計に、「110分の7.8」を乗じてその後「100分の80」を乗じます。仕入が軽減税率の対象となる場合は割り戻し計算と同様、「108分の6.24」で計算してください。

※参考:免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置を適用する場合の税額計算 | 国税庁

計算例

4,400円(税込)の仕入を行い、積み上げ計算を選択したケースの計算例を紹介します。

消費税額が10%の場合、計算式は下記のとおりです。

  • 仕入の取引対価額 × 110分の7.8 × 100分の80 = 仕入税額

消費税額が10%の場合、具体的な計算は下記のようになります。

  • 4,400円 × 110分の7.8 × 100分の80 = 約249円

消費税額が8%の場合、計算式は下記のとおりです。

  • 仕入の取引対価額 × 108分の6.24 × 100分の80 = 仕入税額

消費税額が8%の場合、具体的な計算は下記のようになります。

  • 4,400円 × 108分の6.24 × 100分の80 = 約202円

インボイス制度の80%控除できる期間中の仕訳例

インボイス制度の80%控除できる期間では、控除を受けられない分を適切に仕訳する必要があります。仕訳は控除できない分を費用に上乗せするか、雑損失などで区分するかの主に2通りです。それぞれのケースにおける仕訳例を解説します。

控除を受けられない分を費用に上乗せするケース

22,000円の仕入を行い、控除を受けられない分を費用に上乗せする場合の仕訳例は下記のとおりです。
【取引時】

借方貸方
仕入 20,400円現金 22,000円
仮払消費税等 1,600円 

法人税法では原則として、経過措置で控除を受けられない分は費用に上乗せします。

控除を受けられない分を雑損失などで区分するケース

22,000円の仕入を行い、控除を受けられない分を雑損失などで区分する場合の仕訳例は下記のとおりです。
【取引時】

借方貸方
仕入 20,000円現金 22,000円
仮払消費税等 2,000円 

【決算時】

借方貸方
雑損失 400円仮払消費税等 400円

控除を受けられない分を費用に上乗せず、インボイス制度導入前と同様に仮払消費税等で仕訳するなら、決算時に雑損失として振替します。

2026年10月1日からの経過措置の控除の割合

前述したとおり経過措置の期間中、2023年10月1日から2026年9月30日までの3年間は80%の控除が可能です。一方、2026年10月1日から2029年9月30日までの3年間は50%の控除が適用されます。控除できる割合が減ってしまうことは、あらかじめ把握しておきましょう。

2029年10月1日以降は経過措置が終了し、適格請求書がなければ仕入税額控除が適用されません。仕入税額控除を受けるには適格請求書発行事業者から適格請求書の交付を受け、適切に保存する必要が生じます。

知っておきたいインボイス制度に関するその他の特例

インボイス制度では経過措置の他にも特例が設けられています。知っておきたいインボイス制度の特例は下記のとおりです。

  • 2割特例
  • 少額特例
  • 持続化補助金の補助上限額の上乗せ
  • IT導入補助金のインボイス枠

それぞれ解説します。

2割特例

2割特例とは消費税負担を売上税額の2割に軽減できる制度です。免税事業者から課税転換し、インボイス発行事業者になった事業者が対象です。課税転換とは消費税の納付が免除された免税事業者から、納税義務を負う課税事業者に転換することを指します。

免税事業者が課税事業者に転換すると税負担が増加してしまいます。2割特例を受けられれば事業者の負担を軽減可能です。

少額特例

少額特例とは税込1万円未満の仕入なら、インボイスの保存なしでも仕入税額控除を受けられる制度です。基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5千万円以下の事業者が対象となります。特定期間とは法人なら前事業年度の開始日以後6月、個人事業者なら前年1〜6月までを指します。1万円未満の商品でも同時に複数仕入れた結果、合計が1万円以上となる場合は適応対象外です。

持続化補助金の補助上限額の上乗せ

持続化補助金(小規模事業者持続化補助金)とは、小規模事業者が経営を見直し、持続的な経営に取り組む際に受けられる補助金です。元々、持続化補助金における補助上限は最大で200万円に設定されています。事業者がインボイス特例の要件を満たす場合には、補助上限額に50万円が上乗せされます。つまり、持続化補助金の補助上限額が最大で250万円となるため、事業での大きなサポートとして活用できるでしょう。

IT導入補助金のインボイス枠

IT導入補助金とは中小企業や小規模事業者の生産性向上を目指し、ITツール導入を支援する補助金です。IT導入補助金にはインボイス枠が設けられています。インボイス制度に対応した会計ソフト、受発注ソフトなどを導入する際は、IT導入補助金のインボイス枠を利用できないか検討してみましょう。

インボイス制度対応のおすすめの請求書発行システム

インボイス制度では要件を満たした適格請求書を発行し、適切に保存する必要があります。そのため、インボイス登録事業者になると業務負担が増えてしまいます。業務を効率化するなら、インボイス制度に対応した請求書発行システムの導入がおすすめです。

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まとめ

インボイス制度では仕入税額控除を受けるため、適格請求書の交付や保存が必要です。とはいえ、インボイス制度には経過措置が設けられており、期間中は適格請求書がなくても一定割合の控除が受けられます。経過措置の終了後は適格請求書が発行されない取引では、消費税の負担が増えてしまいます。そのため、事前にインボイス制度への対応を進めておくとよいでしょう。

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