決算書の作り方とは?必要書類や作成手順、効率化のポイントを解説
- 記事公開日:
- 最終更新日:2025-06-06
- この記事の3つのポイント
- 決算書は企業の1年間の経営成績や財政状況を示す重要書類で、法人には作成義務がある
- 決算書の作成には領収書や請求書、総勘定元帳、前期の決算書などの書類が必要である
- スムーズな決算書作成には月次決算や会計ソフトの導入、税理士への依頼も検討すべきである
決算書は、会社の経営状況を数字で把握し、正しく税務申告を行うために欠かせない書類です。特に法人では法律で作成が義務付けられており、誤りがあると税務リスクにもつながります。
この記事では、決算書の基本的な作り方から必要書類、作成手順などを解説します。
決算書の作り方とは?必要書類や作成手順、効率化のポイントを解説
そもそも決算書とは
決算書とは、企業の1年間の経営成績や財政状態を明らかにするために作成する重要な書類です。作成の目的は、利益・損失を把握し、経営判断や税務申告の根拠とすることにあります。
決算書は正式には「財務諸表」と呼ばれ、以下のような複数の書類で構成されます。
- 貸借対照表
- 損益計算書
- キャッシュ・フロー計算書 など
中でも貸借対照表と損益計算書は、中小企業でも必ず作成が必要な基本書類です。一方でキャッシュ・フロー計算書は主に上場企業が対象で、必ずしもすべての企業に義務付けられているわけではありません。
決算書の作成は法人である以上、事業規模に関わらず法律で義務付けられており、株主や税務署などへの説明責任を果たすうえでも欠かせない資料です。
決算書作成時に必要になる代表的な書類
決算書を正確に作成するためには、日々の取引や経理業務を記録・整理した各種書類が必要です。これらの書類が揃っていなければ、収支の正確な把握や税務申告に支障をきたします。
ここからは、決算時に特に重要となる代表的な書類を見ていきましょう。
領収書
領収書は、企業が支出した経費に対して受け取る証明書類です。日々の取引で発生する経費の金額や取引内容を確認するうえで欠かせません。
決算書作成時には、領収書をもとに支出の妥当性を判断したり、帳簿の内容を確認したりします。そのため日付順に整理し、ファイルにまとめておくことが重要です。
また領収書は会社法により、10年間の保管義務が定められています。決算後も紛失しないよう厳重に管理しましょう。
請求書
請求書は、売上や仕入など取引先との取引内容を記録した書類です。決算時には売掛金や買掛金の残高を確認する根拠となるため、領収書と同様に重要な書類といえます。
請求書は取引先別や日付順にまとめて保管しておけば、必要なときにすぐに確認でき、決算作業がスムーズです。仕訳の正確性を判断する資料になるため、漏れなく整理しておきましょう。
請求書の保管期間について詳しくは以下のページで解説しているので、ぜひご覧ください。
関連記事:請求書の保管期間は?法人・個人事業主ごとの年数やインボイスの影響を解説
総勘定元帳
総勘定元帳とは、企業が行ったすべての取引を勘定科目ごとに分類し、日付順に記録した帳簿です。仕訳帳から転記された情報が集計されており、決算書の基になる重要な書類といえます。
総勘定元帳をもとに、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表が作成されるため、記載ミスがないか、内容が正確かを確認することが決算の第一歩といえるでしょう。
総勘定元帳はすべての法人に作成義務があり、会社法上では10年間の保存が必要です。日々の記帳を丁寧に行うことが、決算書作成の正確性を高めます。
総勘定元帳について詳しくは、以下の記事で解説しています。
関連記事:総勘定元帳とは?目的や仕訳帳との違い、書き方(転記方法)を解説
賃金台帳
賃金台帳とは、従業員に支払った給与や、給与から控除した社会保険料・源泉所得税などの記録をまとめた書類です。
賃金台帳の金額は、決算時に決算書上の人件費と一致しているかを確認します。給与関連の金額に間違いがあると税務署からの指摘を受ける恐れもあるため、正確な記載と保存が求められます。
勘定科目内訳明細書
勘定科目内訳明細書は、貸借対照表や損益計算書に記載された勘定科目の内訳を示す書類です。各勘定科目に含まれる取引の詳細を明記し、税務署に対して内容の根拠を示す目的があります。
特に売掛金や買掛金、借入金などの残高が記載された勘定科目では、正確な内訳の提示が必要です。
残高を証明する書類
決算書を作成する際には、帳簿上の金額と実際の残高が一致しているかを確認する「突合せ」が必要であるため、各勘定の残高が実際に存在することを示す以下のような書類が求められます。
- 預金残高証明書
- 借入金の返済予定表
- 取引先への請求書控え
- 仕入先の請求書 など
これらの書類を用意しておけば金額の正確性や信頼性を担保でき、決算書の完成度も高まります。
前期の決算書
2期目以降の企業にとって、前期の決算書は今期の決算書を作成するうえで欠かせない資料です。前期と当期の売上や利益・損失を比較し、業績の変動を把握するために利用されます。
また前期から引き継いだ資産や負債、減価償却の残高なども、正しく決算書に反映する必要があります。継続的な数字の整合性を保つためにも、前期の決算書は必ず手元に準備しておきましょう。
決算書の作成手順
決算書の作成には、順を追って整理・集計・確認を行うことが欠かせません。作業を効率よく、かつ正確に進めるには、基本的な手順を理解しておくことが重要です。
この章では、決算書を作成するまでの流れを6つのステップに分けて解説します。
当年度の記帳をすべて完了させる
決算作業は、当年度の記帳がすべて完了していることが前提です。まずは以下の必要な書類を揃えて、取引を正確に帳簿に記帳しましょう。
- 通帳のコピー
- 領収書
- 請求書 など
年度末にまとめて記帳を行うと作業量が膨大になるため、ミスが発生するリスクも高まります。日頃からこまめな記帳を心がけることが、スムーズな決算への第一歩です。
帳簿と実際の残高が一致するか確認する
記帳が完了したら、帳簿のデータと実際の残高が一致しているかを確認しましょう。通帳残高や取引先からの請求書など、実物の証憑と照合しながら、漏れや誤りがないかをチェックします。
この突合せ作業により帳簿の信頼性を高め、正確な決算書作成につなげられます。
決算整理仕訳を行う
突合せ作業が終われば、決算整理仕訳です。決算整理仕訳とは、期をまたぐ取引や帳簿の修正を行う作業で、たとえば未払金や前払費用、減価償却、貸倒引当金などの処理を行います。
また棚卸資産を確認する「実地棚卸」を実施し、在庫の評価額を確定させるのも重要なポイントです。整理仕訳を反映すれば、今期に属する収益・費用が適切に計上され、決算書の正確性が保たれます。
総勘定元帳へ転記する
決算整理仕訳が完了したら、各勘定科目に分類し総勘定元帳へ転記します。総勘定元帳は、貸借対照表や損益計算書を作成する土台となるため、正確な転記が重要です。
手作業で転記する場合、数字の入力ミスや転記漏れに注意しなければなりません。会計ソフトを利用している場合は仕訳データから自動作成されるため、入力時点での正確さがより重要です。
試算表を作成する
総勘定元帳の情報を基に、試算表を作成します。試算表は、帳簿上の数値に誤りがないかを確認するための集計表です。
借方と貸方の合計金額が一致しているかを確認すれば、仕訳や転記ミスを早期に発見できます。試算表には、以下の3種類があります。
- 合計試算表
- 残高試算表
- 合計残高試算表
試算表は決算書の作成に非常に役立つため、しっかりと確認を行いましょう。
決算書を作成する
試算表の整合性が確認できたら、いよいよ決算書の作成です。損益計算書(P/L)や貸借対照表(B/S)などを作成し、必要に応じてキャッシュ・フロー計算書や個別注記表も整えましょう。
決算書は1年間の経営状況を総まとめしたものとして、経営判断・税務申告・金融機関への提出などに使用されます。専門的な知識が必要な工程のため、不安がある場合は税理士に作成を依頼するのも一つの方法です。
税申告の流れ
決算書の作成が完了したら、次に行うのが税務申告です。法人は毎年、所得に応じた税金を納める義務があり、そのためには法人税や地方税の申告書を作成し、提出・納税を行うことが必要です。
税金の種類によって申告先が異なるほか、期限も決算日の翌日から2カ月以内と定められています。ここからは、税申告の基本的な流れを3ステップで解説します。
税務申告書について詳しくは、以下の記事で解説しているので、ぜひご覧ください。
関連記事:税務申告書とは?法人税申告書の書き方やダウンロードできるページについて解説
法人税・地方税申告書を作成する
決算書を基に、法人税や地方税など各種税金の申告書を作成します。法人税・消費税は所轄の税務署に、法人住民税・事業税は都道府県税事務所や市町村役場に提出しなければなりません。
たとえば、法人住民税は「都道府県民税」と「市町村民税」に分かれており、提出先が異なる点に注意しましょう。東京23区内では一括申告が可能です。
法人税や地方税はすべて決算書の内容を基に確定するため、金額や内訳の整合性を確認しながら申告書を作成する必要があります。申告内容に不備があると追徴課税を受ける可能性もあるため、税理士に依頼して正確な処理を行う企業も多いです。
納税する
作成した申告書を決算書と一緒に所定の提出先へ提出したら、確定した税額を納付します。納付方法は原則として現金一括納付で、期日は事業年度終了日の翌日から2カ月以内です。
税金の納付が遅れると延滞税が発生する可能性があるため、期日を守って支払いましょう。
申告書類を保存する
税務申告が終わった後も、関連書類は法令に基づいて一定期間保存しなければなりません。たとえば貸借対照表や損益計算書、総勘定元帳などの帳簿類は、税法上7年間、会社法上では10年間の保管が義務付けられています。
税務申告書についても税法上7年間の保存義務があり、赤字決算の場合は10年間の保管が必要です。さらに税務届出書などは無期限保存が原則です。
許認可申請や融資申請時に提出を求められることもあるため、書類は適切にファイリングして保管場所を明確にしておきましょう。
決算書作成と税申告に必要な日数の目安
決算書の作成と税申告は、限られた期間で多くの作業をこなす必要があるため、事前にスケジュールを立てておくことが重要です。法人税申告書の提出期限は、事業年度終了日の翌日から2カ月以内と定められているため、逆算して作業を分割しておくと安心です。
たとえば3月決算の法人では、4月から5月にかけて以下のようなスケジュールが一般的なので、参考にしてください。
時期 | 作業内容 | 所要目安日数 |
4月 | 残高確認 | 5日程度 |
4月 | 決算整理仕訳 | 2日程度 |
4月 | 総勘定元帳への転記 | 10日程度 |
4月 | 試算表の作成 | 5日程度 |
5月 | 決算書の作成 | 10日程度 |
5月末まで | 法人税等の申告書作成・提出 | 5日程度 |
記帳が日々適切に行われていれば、全体で約1カ月程度が目安です。提出期限直前の作業にならないよう、余裕を持った計画で行いましょう。
決算書作成と税申告をスムーズに行うためのポイント
決算書の作成や税務申告は、限られた期間で膨大な情報を整理する必要があるため、事前の準備が重要です。
ここからは、決算や申告をスムーズに進めるための具体的な対策を3つ紹介します。
帳簿を正確に記帳し月次決算を取り入れる
スムーズな決算を行うには、日々の帳簿付けを正確に行うことが重要です。特に中小企業では、年に1回の決算でまとめて処理するケースも多く、1年分のデータを一気に見直す作業は大きな負担になります。
このような負担を軽減し、帳簿のミスを早期に発見するためには「月次決算」の導入がおすすめです。月次決算とは毎月の収支を締めて、損益や資金状況を可視化する作業のことです。
月次決算を行えば、経営状態の変化に迅速に対応できるだけでなく、決算時に慌てて記帳や仕訳を行う必要もありません。
効率的な会計システムを導入する
決算書作成や税申告をスムーズに行うには、会計システムの導入も効果的です。会計業務の効率化には、手作業による記帳を減らすことが不可欠です。Excelや手書きでの記帳はミスの発生リスクが高く、確認や転記の手間もかかります。
クラウド型の会計システムであれば、銀行やクレジットカード、レジなどの外部データと連携し、自動で仕訳を生成してくれる機能をもつものもあります。仕訳帳・総勘定元帳といった帳簿も自動で作成されるため、作業負担が大きく減るでしょう。
さらに会計ソフトでは日々の仕訳入力に加え、決算整理仕訳や試算表の作成、申告書の下書きまで一括で対応できるものもあります。ソフトを活用すればミスの防止や業務の属人化の解消にもつながり、決算期の混乱を避けやすくなります。
経費精算システムと会計システムの違いについて詳しくは、以下の記事で解説しているので、ぜひご覧ください。
関連記事:経費精算システムと会計システムの違いとは?連携方法・メリットも解説
税理士に依頼する
税理士に依頼するのも、決算書作成や税申告をスムーズに行う方法です。法人の決算や税務申告は個人事業主の確定申告と比べて格段に複雑であるため、自社だけで対応するのは現実的ではありません。
仕訳の入力までは社内で対応し、決算整理や税務申告を税理士に任せることで、正確かつ効率的に手続きを進められます。税理士は税務のプロフェッショナルであり、頻繁に改正される税法や各種優遇措置にも精通しています。
たとえば税理士に依頼すると、中小企業向けの減税制度や助成金・補助金の申請条件など、専門家でなければ気づきにくい情報にも対応可能です。税理士への依頼は、不要な納税を避け、自社に有利な制度を最大限に活用することも可能です。
まとめ
決算書の作成と税務申告は、企業経営に欠かせない重要な業務です。必要な書類を正しく揃え、記帳や残高確認、決算整理仕訳などを進めれば、精度の高い決算書が完成します。
さらに月次決算の導入や会計ソフトの活用により、作業の効率化も可能です。法人税や地方税の申告は期限が決まっており、提出・納税の遅れはペナルティの対象となるため注意が必要です。
必要に応じて月次決算や会計システムの導入をしたり、税理士へ依頼したりすれば、正確な決算書の作成ができます。決算書や税務申告は、複雑なため無理はせず、税理士などの専門的な判断をしてもらい、正確な申告をしましょう。