消費税の「仕入税額控除」とは? 計算方法・仕組み・要件をわかりやすく解説

消費税の「仕入税額控除」とは、課税売上げにかかる消費税から課税仕入れにかかる消費税を控除することです。各企業において、消費税の納税額に影響するため、課税売上げにかかる消費税額から控除する課税仕入れ等にかかる消費税額(以下「仕入控除税額」といいます。)を適切に算出する必要があります。

本記事では、そもそも仕入税額控除は一体どのような仕組みなのか、どう算出するのかをわかりやすく解説します。

インボイス制度を説明できますか?

従業員にインボイス制度の説明を行いたい経理部門の方へ向け、制度の概要から対応事項の説明が配るだけでできる従業員向けガイドのテンプレートです。

消費税の「仕入税額控除」とは? 計算方法・仕組み・要件をわかりやすく解説

仕入税額控除とは

仕入税額控除とは、生産、流通などの各取引段階で二重、三重に税がかかることのないよう、課税売上げにかかる消費税額から課税仕入れ等にかかる消費税額を控除し、税が累積しない仕組みです。  

製造業者①

卸売業者② 

小売業者③  

消費者④

売上金額

3,000円

5,000円

9,000円

9,000円

消費税

300円

500円

900円

900円

仕入控除税額

300円※1

500円(※1+※2)

実際の納税金額

300円※1

500円-300円※1=200円※2

900円-500円(

※1+※2)=400円

900円

このように、仕入税額控除が適用されることで、事業者は重複して消費税の納税をすることがなくなります。

仕入税額控除の仕組み

各企業の経理担当者は、仕入額控除の仕組みについて、正しい知識を身につけなければいけません。

ここで用いる例は、小麦が生産され、加工工場でパンが製造され、販売店で個人向けに発売されているという流れに沿って説明します。
※小麦生産者、加工工場、販売店は課税事業者、かつ消費税率は一律10%とします。

生産者は400円で小麦を加工工場に販売し、加工工場は700円で販売店に販売し、販売店から1,400円で個人向けに販売していたとします。

生産者は400円で加工工場に小麦を販売するため、税込価格440円となり、加工工場は40円の消費税込の金額を生産者に入金し、生産者は40円を納税する義務があります。

加工工場は700円で販売店にパンを販売するため、税込価格770円となり、販売店は70円の消費税込の金額を加工工場に入金しますが、加工工場は既に40円の消費税を生産者に入金していることから、加工工場の納税義務のある消費税は30円となります。

販売店は1,400円で個人にパンを販売するため、税込1,540円となり、個人は140円の消費税を販売店に支払います。販売店は既に70円の消費税を加工工場に支払っていることから、販売店の納税義務のある消費税は70円となります。

上記の流れの通り、個人が支払う140円の消費税を生産者が40円、加工工場が30円、販売店が70円と分割して負担することで、仕入れに対しての消費税をそれぞれが納めるという仕組みになっています。

仮に、本記事で紹介しているこの仕入税額控除がない場合、生産者、加工工場、販売店の納税金額は、生産者の場合は40円のままですが、加工工場の場合は70円、販売店の場合は140円支払うことになり、本来140円である消費税を結果的に250円も納税することになってしまいます。

それでは各事業者は消費税の納税が二重及び三重となって結果的に多額の支払いとなってしまいます。こうした事態を回避するために、仕入税額控除は存在しているのです。

仕入税額控除の対象

取引の全てが課税仕入となるわけでなく、消費税がかからない取引もあり、下記が消費税がかかる取引の例となります。

  • 棚卸資産の購入
  • 原材料の購入
  • 機械及び建物、車両及び器具備品等の事業用資産の購入及び賃借
  • 広告宣伝費、接待交際費、通信費、厚生費、水道光熱費等の支払い
  • 事務用品、消耗品、新聞図書等の購入
  • 修繕費
  • 外注費

人件費における給与等の支払いがありますが、こちらに関しては課税仕入れとはなりません。一方で、加工料及び人材派遣料、警備及び清掃等を外部委託しているケースでの委託料等は課税仕入れとなるため、判別には細心の注意が必要です。

仕入税額控除の要件

各企業の経理担当者は、仕組みだけでなく要件の内容も正しく認識しておく必要があります。特に2023年10月1日よりインボイス制度が開始し、仕入税額控除の要件が変更されるため、注意してください

一部の取引は、たとえ事業に必要とみなされる仕入れだったとしても、仕入税額控除にできません。仕入税額控除にできる、できないという判断は、主な消費税のかからない取引を覚えておくことで、正しく消費税判定を行うことが出来るようになります。

主な消費税のかからない取引(非課税取引及び不課税取引)の例としては、次の通りです。

  • 人件費(給与)
  • 借入金の利息及び法人契約における損害保険料及び生命保険料
  • 法人が社宅等の居住用で契約した不動産における家賃
  • 海外送金時発生する手数料
  • 商品券及びプリペイドカード等の購入
  • 印紙売り場で購入する印紙等
  • 固定資産税及び自動車税等の各種税金
  • 寄付
  • 損害賠償金
  • 取引先及び従業員への慶弔費

「仕入」という言葉に惑わされ、原材料や製品などの棚卸資産の仕入れのみが控除の対象となるといった勘違いをしてしまう事のないように、注意しておきましょう。

仕入税額控除における3種類の計算方法

仕入税額控除の算出方法には、大きく分類すると2つのケースが存在します。それが「原則課税」と「特例課税」です。

「原則課税」とは、総売上高のうち、課税売上高に占める割合を考慮して数値を出すものをいいます。
「特例課税」とは、簡易課税制度と呼ばれる方法のことで、課税売上高の税額に「みなし仕入率」をかけて仕入税額控除を計算します。

課税売上割合は、多くの小売業や卸売業において課税売上の対象となっているため、課税売上割合が高くなっている傾向が強いのが特徴です。しかし、不動産業及び医療機関等の非課税取引が多いケースでは、割合が低くなる傾向があります。

課税売上割合の計算方法

小売業や卸売業などは仕入税額控除の計算をする際に、基準期間における課税売上高が5,000万円を超えない課税期間のみかつ、税務署への事前の届出も必要となることから原則課税(課税売上割合を用いる場合)が非常に多くなります。そのため、まずは課税売上割合の計算方法について把握しておかなければ、控除額の正しい計算は出来ません。基本としてしっかりと覚えておきましょう。

課税売上割合=課税期間中の課税売上高(税抜き)/ 課税期間中の総売上高(税抜き)

例えば、不動産の販売業者の場合において、建築物の売上高が2,000万円(税抜き課税売上高)、土地の売上高1,400万円(非課税売上高)という際には、上記の算出式に当てはめると下記のような計算となります。

2,000万円/(2,000万円+1,400万円)=約59%です。

一方で、小売業及び卸売業の場合において、商品の売上高が2,000万円(税抜き課税売上高)、3,000万円(税抜き課税総売上高)という際には下記の計算となります。

課税売上高=2,000万円/3,000万円=約66%となり、小売業及び卸売業においては課税売上高が高くなるということがわかります。

また、仕入税額控除の原則は、「全額控除方式」「個別対応方式」「一括比例配分方式」の3種類に分けられています。下記において詳しく解説します。

1.全額控除方式

課税売上高が5億円を超えない場合、なおかつ、課税売上割合が95%を超えるという条件の際に適用されます。こうした全額控除が適用されるケースでは、課税仕入れに対する全ての税額が、仕入税額控除の対象となります。

いわゆる95%ルールと言われている基準により、仕入控除税額の全額を控除できるのか、一部しか控除できないのかが決まります。また、一部控除は、課税売上高が5億円以上というケースや、95%に満たない課税売上割合の場合に適用されます。

2.個別対応方式

個別対応方式とは、仕入れに対する消費税を下記の3つに区分して納付税額を計算する方法です。

・課税売上げにのみ要する課税仕入れ等にかかるもの
・非課税売上げにのみ要する課税仕入れ等にかかるもの
・課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ等にかかるもの

課税売上と非課税売上のどちらにも当てはまるものについては、課税売上割合を掛けることで当てはまる一部が、仕入税額控除に適用されるということになります。

課税売上対応分にかかる消費税+(課税売上と非課税売上のどちらにも当てはまる部分にかかる税額×課税売上割合)=仕入控除税額

課税売上割合の部分は、先ほどご紹介した計算式をまず行い、割合の数値を出しておきましょう。

3.一括比例配分方式

個別対応方式を適用するための分類が、はっきりと判明できていない、もしくは、会社が選択したケースにおいて適用される算出方式の一つです。仕入税額控除の対象となる税金に、課税売上割合を掛けた金額が対象となります。式にすると下記のようになります。

仕入控除税額=課税仕入れにかかる税額の合計×課税売上割合

こちらも例外ではなく、先ほどご紹介した課税売上割合の計算を事前に行い、数値を出しておきましょう。

簡易課税制度(特例)

簡易課税制度は、先ほどご紹介した3つの方式とは異なり、仕入税額控除の特例です。基準期間である前々事業年度(※個人事業主である場合前々年)の課税売上高が5,000万円以下である場合のみ、選択可能です。

売上げにかかる消費税額に、事業の種類の区分(事業区分)に応じて定められたみなし仕入率を乗じて算出した金額を仕入れにかかる消費税額として、売上げにかかる消費税額から控除することになります。この場合、売上げにかかる消費税額を出すことが出来れば、仕入控除税額を算出することが可能であるために「簡易」という名称がつけられています。

簡易課税の基準を満たしている、かつ適用を受けたいと考える事業者は、その課税期間の初日の前日までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」を納税地の所轄税務署長に必ず提出せねばなりません。

簡易課税適用時の消費税の計算式は次の通りです。

仕入控除税額=売上げにかかる消費税額×みなし仕入率

仕入税額控除の計算方法を変更する手続き

それぞれの企業の経理担当者は、仕入税額控除の計算方法について、変更する手続き方法の正しい知識をしっかりと身につける必要があります。

原則課税から簡易課税へ変更を行うために、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。

一方で簡易課税から原則課税適用に戻したいというケースでは、適用をやめようとする課税期間の初日の前日までに、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を納税地の所轄税務署長に提出します。ただし、簡易課税制度の適用となった課税期間から最低2年間に関しては「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」の提出は不可能となっていますので注意が必要です。

まとめ

本記事では、仕入税額控除の仕組みや算出方法、要件を解説しました。繰り返しになりますが、経理担当者は、自社にとって最適となる仕入控除税額の算出方法を、正しく理解することが重要です。場合によっては、適用される仕入税額控除の算出方法の変更についても正確に検討する必要があるでしょう。

さらに必要に応じて、計算方法を変更する手続き等も行う必要があります。控除の要件や算出方法なども含め、常日頃から対応できるようにしておくことが大切です。

請求書・見積書・納品書を簡単作成「バクラク請求書発行」

請求書・見積書・納品書等あらゆる帳票の作成、稟議、送付、保存の一連の業務をデジタル化。基幹システムから出力するCSVファイルを瞬時に変換し、様々な帳票のレイアウトを柔軟に作成・編集可能です。もちろんインボイス制度と電子帳簿保存法にも完全対応しているため、負担の大きなバックオフィスの業務を一律で効率化する機能を提供します。