有給消化のルールとは?法律で義務化された背景や注意点を解説

有給休暇の取得は労働者の権利で、企業には年5日の有給消化が義務付けられています。義務を果たせなかった場合、労働基準法違反で企業が罰せられるため注意が必要です。

本記事では、有給消化が義務付けられた背景や、従業員に消化を促すメリット・注意点などを詳しく解説します。有給消化について理解を深め、今後の業務にお役立てください。

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有給消化のルールとは?法律で義務化された背景や注意点を解説

有給消化とは?

有給消化とは、企業から付与された有給休暇を従業員が取得することです。

有給休暇は休んでも賃金が支払われる休暇のことで、従業員の心身の疲労回復とワークライフバランスの充実化が主な目的です。有給休暇の取得は労働者に与えられる権利として、労働基準法に定められています。

付与の対象は、入社から6カ月が経過し、全労働日の8割以上出勤したすべての従業員です。フルタイム労働者は継続勤務年数、パートタイム労働者は所定労働日数と継続勤務年数に応じた日数が付与されます。

有給休暇が付与されるタイミングは、雇入年月日の6カ月後を基準日とした1年ごとです。たとえば、2024年6月1日に入社した従業員の初回付与日は2024年12月1日、以降は毎年12月1日に付与されます。

参考:e-Gov法令検索「労働基準法第39条

有給休暇の付与日数やタイミング、ルールについてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。

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有給消化が義務化された背景

有給消化が義務化された背景として、以下2点が挙げられます。

  • 日本の有給取得率の低さ
  • 企業規模間の有給取得率の格差

厚生労働省の調査によると、有給休暇の取得率は2014年(2015年調査)の47.6%以降微増傾向であったものの、半数に満たない取得率が続いていました。

また同省が行った平成30年の調査では、有給取得率が従業員数1,000人以上の企業で58.4%、30~99人の企業では44.3%という結果でした。大企業は労働環境が比較的整いやすいことから、有給休暇の取得率が高い傾向にあったのでしょう。

そこで、働き方改革の一環として2019年4月に施行されたのが、年5日の有給消化を義務化する法律です。

2018年(2019年調査)は52.4%であった有給取得率が、施行後の2019年(2020年調査)では56.3%と大幅に上昇しました。その後も、65.3%の2023年(2024年調査)まで上昇が続いています。

※掲載している情報は、2025年2月時点のものです。情報は変更される可能性があるのでご注意ください。

参考:厚生労働省「令和6年就労条件総合調査の概況

参考:厚生労働省「平成30年(2018年)就労条件総合調査

有給は年5回消化する義務がある

2019年4月に労働基準法が改正され、有給休暇を年5日以上消化することが義務付けられました。義務化の対象は、有給休暇が年間10日以上付与されるすべての労働者です。

対象者は、基準日から1年以内に最低5日の有給休暇を消化する必要があります。たとえば、2024年6月1日に10日の有給休暇が付与された従業員は、2025年6月までに5日以上消化しなければなりません。

義務を果たせなかった場合は、違反労働者1人につき30万円以下の罰金が科されます。企業には、適切な取得進捗の管理と取得に向けた働きかけが求められます。

参考:労働基準法e-Gov法令検索「労働基準法39条

有給休暇の消化義務について、期限や罰則への理解を深めたい方は以下の記事もご覧ください。

関連記事:有給休暇5日の取得義務化とは?期限や罰則を詳しく解説

有給消化を促進するメリット

有給消化の促進は、従業員だけでなく企業にもさまざまなメリットがあります。どのようなメリットがあるのか、詳しく見ていきましょう。

生産性の向上

有給消化の目的の一つに、心身の疲労回復による労働力の維持効果があります。定められた休日以外のタイミングで心身をリフレッシュでき、生産性の向上が期待できます。

また有給休暇は、休んでも賃金が支払われるのが特徴です。その点を安心材料として息抜きできるため、仕事に身が入りやすくなるでしょう。

企業のイメージアップ

有給消化の促進は、企業のイメージアップにもつながります。自社の有給取得率を社外へアピールすることにより、取引先に労働環境が整った印象を与えられます。

また、求職者にアピールすれば、人材を確保しやすくなる点もメリットです。仕事とプライベートを両立したい求職者の多くは、有給取得率の高い企業ほど魅力的と感じるでしょう。

社員の満足度向上

有給消化の促進により、従業員の満足度向上が期待できます。気兼ねなく有給消化できる職場だと従業員に認識されれば、離職防止にもつながるでしょう。

労働人口の減少により人材確保が困難な昨今、在籍する従業員をいかに離職させないかが企業に求められます。

有給消化を促さない企業に起こり得るデメリット

有給消化を促さない企業に懸念されるデメリットは、以下の4つです。

  • 生産性の低下
  • 企業のイメージダウン
  • 離職率の増加
  • 罰則が科されるリスク

有給消化がしにくい職場では、従業員が心身の疲労を回復できず、生産性の低下につながる恐れがあります。「労働者の権利を行使できない企業」として企業のイメージダウンにつながったり、従業員の離職を招いたりする可能性もあるでしょう。

また、年5日の取得義務を怠った企業には罰則が科されます。有給消化の仕組みや手続きを理解していない従業員が消化し損ねないように、企業側は日頃から適切な管理と働きかけをしましょう。

有給消化における注意点

本章では、有給消化における6つの注意点を紹介します。

有給休暇の有効期限は付与されてから2年

有給休暇には有効期限があり、付与から2年経過したものは時効により消滅します。

未消化分の有給休暇は次年度に繰り越せますが、消化の優先順位に法的な定めはない点に注意が必要です。新規付与分から消化する企業もあるため、就業規則などを事前に確認しましょう。

有給消化の理由は不要

有給消化を申し出る際、休む理由を上司に伝える必要はありません。就業規則などに、理由が必要な旨の記載があっても無効となります。

有給休暇は労働者に与えられた権利であり、用途は本人の意思に委ねられています。コミュニケーション目的で個人的に尋ねるのは問題ありませんが、無理な聴取は避けましょう。

退職すると有給はなくなる

未消化分の有給休暇は、退職すると消滅します。企業側に義務付けられているのは在職者の有給消化であり、退職者に対してはその義務がないためです。

従業員から有給消化の申し出がなければ、そのまま退職日を迎えても法的な問題はありません。従業員は、在職中に有給休暇を消費する必要があります。

繁忙期であれば時季変更権により日付変更が可能

有給休暇の取得日は従業員の自由な意思で決定できますが、繁忙期などを指定された場合は企業側が時季変更権を行使できます。

ただし、正当な理由による行使でも、従業員が納得しない場合は原則として取得を認めなければなりません。時季変更権の行使条件や適用範囲を就業規則に明記し、従業員とのトラブルを回避しましょう。

有給消化を拒否してはならない

従業員から有給消化の申し出があった際、企業側は拒否してはならない旨が労働基準法39条5項に定められています。

従業員が取得希望日に休暇をとった後に給与相当額を支払わないのは、労働基準法違反となるため注意してください。事業の正常な運営を妨げる申し出と判断する場合は、客観的に評価される根拠などをもとに時季変更権を行使しましょう。

有給の買取はできない

有給休暇の買取は、労働基準法で原則認められていません。ただし、就業規則に運用ルールの記載があり、以下のいずれかに該当する場合は買取できることもあります。

  • 企業が法定以上の日数を付与している
  • 退職時に未消化の有給休暇がある
  • 消滅時効を迎えた有給休暇がある

対応は企業ごとに異なり、本来の労働対価と同等の買取価格にならない可能性もある点に注意が必要です。労働者に与えられた権利として、できる限り在職中にすべて消化しましょう。

退職時に有給消化する方法

退職時に未消化の有給休暇がある場合は、適切な方法ですべて消化するのが望ましいといえます。退職時の有給消化について、具体的な方法と流れを見ていきましょう。

有給残日数を把握する

まずは、勤怠システムや給与明細などで有給休暇の残日数を把握します。有効期限もあわせて確認し、退職日までに消滅する有給休暇がある場合は優先的に消化してください。

なお、企業側に残日数の通知義務はありません。自身で把握できない場合は、担当者に確認しましょう。

退職と有給消化のスケジュールを決める

次に、退職と有給消化のスケジュールを決めます。退職を申し出る期限が定められている企業もあるため、有給消化のルールとあわせて就業規則を事前に確認しましょう。

退職前の有給消化には、以下のような方法があります。

  • 最終出勤日から退職日までの日数分を有給休暇とする方法
  • 引継ぎを行いつつこまめに取得し、退職日までの1週間程度をすべて有給休暇とする方法

スケジュールの決定における重要なポイントは、後任者への引継ぎが完了する日程を組むことです。自身で決めかねる場合は、上司に相談した上で決定しましょう。

上司へ早めに報告する

有給消化の計画を立てたら、退職の意向とともに上司へ報告します。業務の調整や後任者への引継期間を考慮すると、遅くとも退職希望日の1〜2カ月前には伝えるのが望ましいでしょう。

まずは口頭で報告し、その後メールや書面で退職願を提出するのがおすすめです。企業とのトラブルを避けるために、有給消化のスケジュールも書面で残しておくとよいでしょう。

有給消化を促す方法

年5日以上の取得義務を果たすには、企業側から従業員への適切な働きかけが必要です。本章では、有給消化を促す4つの方法を詳しく解説します。

申請しやすい環境を整える

有給消化がしにくい雰囲気だと、従業員から積極的な申し出を受けるのは難しいでしょう。従業員が気兼ねなく有給消化するには、申請しやすい社風を整えることが重要です。

定期的な面談を通じて業務量の確認・調整を行い、属人化を防ぎましょう。有給消化中の代理担当者を決めておけば、従業員が安心して休めるメリットもあります。

また、労働基準法の範囲内で企業独自のルールを定めるのも効果的です。ルールは就業規則や雇用契約書に記載し、従業員へ周知しましょう。

計画年休を検討する

計画年休とは、企業が従業員の有給取得日を事前に計画する制度です。労使協定の締結と就業規則への記載があれば、消化義務の5日を除いた日数分を計画年休に指定できます。

計画年休の具体例は以下のとおりです。

  • 企業独自の一斉休業日を設けて計画年休とする
  • 従業員を班分けし、それぞれ異なる休暇日を指定する
  • 従業員ごとに希望を確認し、誕生日や記念日をアニバーサリー休暇とする

計画年休の活用により、企業側は閑散期と繁忙期の人的リソースを調整しやすくなります。消化日があらかじめ決まっている点で、従業員側も安心して休暇をとれるメリットがあるでしょう。

時季指定での取得を進める

時季指定とは、有給消化を進める目的で企業側が取得時季を定める方法です。有給消化に消極的で年5日以上に満たない従業員への実施が、義務付けられています。

企業の独断による時季指定はできないため、従業員の希望を確認した上で適切な取得時季を決定しましょう。従業員が具体的な希望日を提示した場合は、最大限尊重する必要があります。

個別に有給消化を管理する

有給消化状況を個別に管理するには、専用システムの導入がおすすめです。各従業員の残日数や消化状況をシステム上で容易に確認できるほか、従業員への残日数通知機能が搭載されたシステムなどもあります。

また、企業には有給休暇管理簿の作成が義務付けられています。有給休暇管理簿の作成目的は有給休暇の個別管理で、基準日・日数・時季の記載が必要です。有給休暇管理簿にフォーマットはないため、必要な情報は適宜追加しましょう。

有給消化状況を早めに検知!バクラク勤怠での管理がおすすめ

有給消化とは、企業から付与された有給休暇を従業員が取得することです。年間10日以上の有給休暇が付与される労働者には、年5日以上の有給消化が義務付けられています。

有給消化に消極的な労働者もいることを考慮し、企業風土を整えて取得しやすい環境をつくることが重要です。残日数や取得進捗を各従業員へ通知するのが効果的ですが、手作業では管理が難しい場合もあるでしょう。

そのような企業におすすめなのが、勤怠管理システムの導入です。バクラク勤怠は、各従業員の有給取得義務日数を出勤簿から容易に確認できます。

また、出勤簿には日々の勤務実績に基づいた残業時間の見込みも表示されます。残業申請の段階で見込み計算に反映されるため、過重労働の防止に役立つでしょう。

有給休暇の取得管理を効率化したい方は、バクラク勤怠の導入をご検討ください。詳しいサービス内容や導入事例などは、以下のページで紹介しています。

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