フレックスタイム制での残業の考え方とは?残業代の計算方法・注意点を解説
- 記事公開日:
- 最終更新日:2025-06-12
- この記事の3つのポイント
- フレックスタイム制を導入したからといって、一概に残業代を減らせるとはいえない
- フレックスタイム制で残業を課す場合は、36協定の締結および労働基準監督省への届出が必要
- フレックスタイム制の残業代は、基本的に「1時間あたりの基礎賃金×残業時間×割増率」で計算する
「ワーク・ライフ・バランス」が重視されるなか、フレックスタイム制を導入する企業は増加傾向にあります。フレックスタイム制は、コアタイムを除いて従業員が自由に勤務時間を選択できるため、求職者からも高い注目を集めています。
一方で、フレックスタイム制を導入すると、残業が発生した際の計算方法が煩雑になりがちです。正しく理解していないと残業代未払いのリスクを抱える可能性もあります。
本記事では、フレックスタイム制における残業の考え方を解説します。残業代の計算方法や注意点も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
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フレックスタイム制での残業の考え方とは?残業代の計算方法・注意点を解説
フレックスタイム制で残業は減らせる?
フレックスタイム制とは、あらかじめ定めた一定期間の総労働時間内で、従業員が始業・終業時刻、労働時間を自由に決めて勤務できる制度です。
必ず業務を行わなければいけない「コアタイム」を除き、従業員は好きな時間を選択して働くことができます。1日あたりの所定労働時間もありません。
1〜3カ月の清算期間内で総労働時間を決定するため、たとえば「今日は10時間働いたから、明日は6時間で仕事を終えよう」といった働き方も可能です。
フレックスタイム制には、従業員・企業ともにメリットがあります。従業員は仕事とプライベートの両立がしやすいほか、企業は業務効率の向上や離職率の低下が期待できます。
フレックスタイム制では原則残業が認められていません。残業をさせる場合には、36協定の締結および労使間での合意が必要です。
フレックスタイム制を導入したからといって、一概に「残業時間を減らせる」というわけではありません。残業時間を減らすためには、従業員本人の適切な判断と時間管理が求められます。
フレックスタイム制の仕組みやメリット・デメリットについては、以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
一般的な勤務体系とフレックスタイム制の違い
一般的な勤務体系とフレックスタイム制には、労働時間と残業時間の考え方に以下のような違いがあります。
一般的な勤務体系 | フレックスタイム制 | |
労働時間 | 法定労働時間の範囲内で所定労働時間を決める (1日8時間、週40時間等) | 清算期間における「法定労働時間の総枠」で所定労働時間を決める |
残業時間 |
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一般的な勤務体系では、法定労働時間(1日8時間・週40時間)の範囲内で所定労働時間を決定します。なお、所定労働時間を超えると残業時間になります。残業には法廷内残業と法定外残業(時間外労働)があり、後者は割増賃金を支払わなければいけません。
フレックスタイム制では、期間における法定労働時間の総枠で所定労働時間を決定します。所定労働時間の計算方法は、以下のとおりです。
(清算期間の暦日数÷7)×一週間の法定労働時間(40時間)
フレックスタイム制では原則残業が認められておらず、時間外労働をさせる場合には36協定の締結と労働基準監督署への届出が必要です。
フレックスタイム制においては、1日8時間・週40時間を過ぎても、ただちに残業にはなりません。法定労働時間の総枠を超過した分が、時間外労働に該当します。
残業時間の概要や計算方法は、以下の記事でも詳しく解説しています。
関連記事:時間外労働とは?定義や法改正された上限規制内容、計算方法を解説
フレックスタイム制で注意したいポイント
フレックスタイム制を導入する際には、事業者が押さえておくべき注意点があります。以下で詳しく解説するので、ぜひ参考にしてみてください。
職場によっては週の法定労働時間が44時間になる
原則、法定労働時間は「1日8時間・週40時間」です。
しかし、「特例措置対象事業場」に該当する場合、法定労働時間は週44時間です。週44時間を超えるまで割増賃金は発生しません。
「特例措置対象事業場」とは、以下に該当する業種で、常時10人未満の労働者を使用する事業場を指します。企業全体ではなく、工場や支店、営業所等など個々の事業場における人数です。
- 商業:卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、その他の商業
- 映画・演劇業:映画の映写、演劇、その他興業の事業
- 保健衛生業:病院、診療所、社会福祉施設、浴場業、その他の保健衛生業
- 接客娯楽業:旅館、飲食店、ゴルフ場、公園・遊園地、その他の接客娯楽業
出典:厚生労働省 徳島労働局「法定労働時間」
総労働時間を超過した残業は次の清算期間に繰り越せない
フレックスタイム制では、清算期間内の総労働時間を管理します。実労働が総労働時間に満たなかった場合は、不足分を次の清算期間に繰越すことが可能です。
たとえば、総労働時間が170時間にも関わらず、実労働時間が165時間しかなかった場合は、次の清算期間で175時間に上乗せができます。
一方、清算期間内の総労働時間を実労働が超過した際の繰り越しはできません。総労働時間が170時間に対して180時間の実労働時間がある場合に「次の清算期間は160時間しか働かなくて良い」という対応はできないため注意が必要です。
残業代は、必ず清算期間内の給与に含めて支払う必要があります。残業代の未払いは法令違反になるため注意しましょう。
時間外労働の上限が定められている
一般的な勤務体系と同様に、フレックスタイム制にも時間外労働の上限があります。具体的な内容は以下のとおりです。
原則 | 時間外労働時間の上限 | 月45時間以内 年360時間以内 |
特別条項 | 回数 | 年6回以内 |
年間時間外労働時間の上限 | 年720時間以内 | |
時間外労働時間と休日労働の合計 | 単月100時間未満 ※2~6カ月平均80時間内 |
出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」
「特別条項」とは、臨時的な特別の事情がある場合にのみ適用される条項です。原則として「月45時間以内・年360時間以内」の残業時間の上限が適用されます。
なお、フレックスタイム制で時間外労働を課す際には、上限を遵守するほか、36協定の締結と労働基準監督署への届出が必要です。
フレックスタイム制での残業代の計算方法
フレックスタイム制での残業代は、以下の計算式を用いて算出します。
1時間あたりの基礎賃金×残業時間×割増率
加えて、以下では「基礎賃金」「割増率」「清算期間が1カ月を超えるときの計算方法」について解説します。
基礎賃金とは
基礎賃金は、給与総額から手当等を除いた1時間あたりの賃金のことです。基礎賃金は「基本給÷所定労働時間」の計算式で求められます。
ただし、以下のような手当や賃金は、基礎賃金に含まれません。
- 家族手当
- 通勤手当
- 住宅手当
- 教育手当
- 臨時的な賃金
上記は労働の対価ではなく、従業員の事情に応じて支給されるもののため、基礎賃金から除外されます。基礎賃金はあくまでも「労働の対価として支払う賃金」と理解しましょう。
割増率とは
法定労働時間を超える残業に対しては、割増賃金が発生します。対象条件による割引率は、以下のとおりです。
対象条件 | 割増率 |
通常の法定時間外労働 | 25%以上 |
深夜労働 | 25%以上 |
休日労働 | 35%以上 |
月60時間を超える法定時間外労働 | 50%以上 |
法定時間外労働かつ深夜労働 | 50%以上 |
休日労働かつ深夜労働 | 60%以上 |
月60時間を超える法定時間外労働かつ深夜労働 | 75%以上 |
一方、法定内残業への割増率は企業が独自で決定します。法律による定めがないため、割増率が適用されず、通常賃金で支払われるケースが多いです。
清算期間が1カ月を超えるときの計算方法とは
2025年4月現在、フレックスタイム制の清算期間の上限は3カ月です。清算期間が1カ月を超える場合の残業代は、以下の方法を合算して算出します。
- 清算期間1カ月ごとに週平均50時間を超えた労働時間
- 清算期間全体で、法定労働時間の総枠を超えた実労働時間
出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」
1、2カ月目は「清算期間1カ月ごとに週平均50時間を超えた労働時間」を確認しましょう。最終月は「清算期間全体で、法定労働時間の総枠を超えた実労働時間」と合算することで、清算期間全体の残業時間を算出できます。
なお、清算期間全体で法定労働時間の総枠を超えた実労働時間に対しても割増賃金が発生します。ただし、すでに1・2カ月の給与で残業代を支払っている場合は、この限りではありません。
フレックスタイム制での有給取得や休日労働の扱いは?
フレックスタイム制における有給取得・休日労働の扱いについて解説します。一般的な勤務体系とは扱い方や計算方法が異なるため、フレックスタイム制の導入を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
有給取得の場合
フレックスタイム制で有給取得をした場合は「丸1日で取得するか半休で取得か」で計算方法が異なります。
丸1日で有給休暇を取得する場合は、あらかじめ労使間で締結した「標準となる1日の労働時間」の時間分を実労働時間に加えて給与を計算します。
一方、有給休暇を半日単位で取得する場合は「標準となる1日の労働時間」の半分を実労働時間として計算しましょう。
有給休暇は実働時間に含まれないため、有給取得によって労働時間が「法定労働時間の総枠」を超えても、割増賃金は発生しません。
休日労働の場合
フレックスタイム制においても、一般的な勤務体系と同様に、従業員へ法定休日を与える義務があります。
使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。
前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。
出典:e-Gov法令検索「労働基準法第三十五条」
法定休日に労働させた場合は、割増率35%以上の割増賃金を支払う必要があります。休日労働の時間は、清算期間における総労働時間や、時間外労働とは別で取り扱われるため注意が必要です。
フレックスタイム制において残業が違法となる事例
フレックスタイム制において、残業が違法となる事例を紹介します。適切な運用と法令遵守を遂行するためにも、理解を深めましょう。
時間外労働の上限を超えた残業命令が出ている
36協定を締結したからといって、際限なく働かせられるわけではありません。時間外労働時間には、原則「月45時間以内・年360時間以内」の上限があります。
一方で、臨時的な特別の事情がある場合は、労使間での合意と以下条件の遵守により、上限を引き上げることが可能です。
- 時間外労働:年720時間以内
- 時間外労働と休⽇労働の合計:⽉100時間未満
ただし、時間外労働と休日労働の合計は、2カ⽉〜6カ⽉の平均がすべて「1カ月あたり80時間以内」である必要があります。また、時間外労働が⽉45時間を超過できるのは、年6カ⽉が限度です。
時間外労働の上限を超えて残業命令を出すのは違法で、事業者に6カ⽉以下の懲役または30万円以下の罰⾦が科されるため注意が必要です。
残業代を適切に支払わない
フレックスタイム制で、残業代を払わずに残業時間を翌月に繰越すことはできません。残業代を適切に支払わない場合は違法となり、従業員は「残業代未払い」として請求できます。
不要なトラブルを防ぐためにも、従業員の勤務時間と残業時間を管理し、適切に計算した給与を支払いましょう。
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フレックスタイム制は従業員・事業者の双方にメリットがある働き方である一方、勤怠管理や給与計算が煩雑になりがちです。一般的な勤務体系と異なる考え方や計算方法があるため、正しく理解し対応する必要があります。
一方で従来の勤怠管理のまま、フレックスタイム制で働く従業員を適切に管理するのは容易ではありません。
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