固定残業代とは?みなし労働時間制との違いやメリット・デメリットを解説

固定残業代とは、あらかじめ一定時間の残業代を毎月定額で支給する制度です。

本記事では固定残業代とはなにか、みなし労働時間制との違い、メリット・デメリットを解説します。計算方法や注意点についても解説しているので、ぜひ参考にしてください。

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固定残業代とは?みなし労働時間制との違いやメリット・デメリットを解説

固定残業代とは

固定残業代とは、あらかじめ一定時間分の残業代を毎月定額で支給する制度のことです。みなし残業代とも呼ばれ、実際の残業時間に関わらず、決められた時間分の残業代が支払われます。

固定残業代の支払い方法は、以下の2つがあります。

  • 基本給組み込み型:基本給に残業代を含めるもの
  • 手当型:残業代を別枠の手当として支払うもの

どちらも通常の賃金部分と残業代部分を明確に区別し、雇用契約書や就業規則に内容を明示することが必要です。固定残業代を導入する際は従業員に制度内容を説明し、法定上限である月45時間(36協定)を超えないよう設定することも、重要なポイントです。

固定残業代とみなし労働時間制との違い

固定残業代とみなし労働時間制は似た名称ですが、制度の趣旨や運用方法が大きく異なります。混同しないよう、それぞれの仕組みを正しく理解しておきましょう。

まず固定残業代とは、実際に残業をしたかどうかに関係なく、毎月あらかじめ決められた時間分の残業代を定額で支払う制度です。設定時間を超えて残業した場合は、超過分の残業代を追加で支払う必要があります。

一方のみなし労働時間制は、実際の労働時間に関係なく「所定の労働時間を働いた」とみなす制度で、事業場外での勤務や裁量労働に適用されます。

この制度では深夜や休日勤務を除き、所定時間を超えた時間外労働について原則として残業代は発生しません。

つまり、固定残業代は「残業代を定額で支払う仕組み」、みなし労働時間制は「働いた時間を一定とみなす仕組み」であり、適用目的や運用条件が異なります。

以下は、固定残業代とみなし労働時間制の違いをまとめた表です。ぜひ参考にしてください。

 

固定残業代

みなし労働時間制

制度の内容

毎月決められた時間の残業が固定で支払われる

実際の労働時間に関係なく所定労働時間を働いたとみなす

対象

残業代

労働時間

残業代の

運用方法

・固定の残業分稼働がなくても支払われる
・決められた時間以上残業した場合は、追加で支払われる

・残業代は基本支払われない

・法定労働時間を超過した場合は支払われる(深夜労働や休日など)

月平均所定労働時間とはなにか、詳しくは以下の記事で解説しています。

関連記事:月平均所定労働時間とは?計算方法や上限を解説

残業時間の概要や計算方法は、以下の記事でも詳しく解説しています。

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固定残業代のメリット

固定残業代制度は、企業・従業員双方にメリットがあります。企業は人件費の予測や管理がしやすくなり、従業員は収入の安定や時間の確保につながります。

ここからは、企業と従業員それぞれの視点から、固定残業代を導入することで得られる具体的なメリットを見ていきましょう。

企業側のメリット

企業側にとって固定残業代を導入するメリットは、主に3つあります。それぞれ順番に解説します。

残業代の計算がしやすくなる

固定残業代制度のメリットは、毎月の残業時間が設定した固定時間内で収まっている限り、従業員ごとの残業時間を個別に計算する必要がなくなることです。

たとえば、月20時間分の固定残業代が設定されていれば、実際の残業が15時間であっても、満額の20時間分を支給するだけで済みます。

毎月の給与計算の手間が減り、残業代にかかる業務の負担が大幅に軽減されるため、特に従業員数が多い企業や、毎月の残業時間にばらつきがある職場にとっては、作業の効率化につながるといえるでしょう。

人件費の見通しを立てやすくなる

固定残業代を導入すれば、残業代の支払い額がある程度固定されるため、人件費の予測が立てやすくなるのもメリットです。たとえば、あらかじめ「月20時間の固定残業代を支給する」と決めておけば、残業が発生しても範囲内であれば追加支払い不要です。

人件費の変動幅を抑えられることで、資金繰りや予算管理、経営計画の立案にも好影響を与えます。特に繁忙期と閑散期の差がある業種では、労働コストの平準化につながり、経営の安定化にも寄与する制度といえるでしょう。

業務効率化が進む可能性がある

固定残業代制度の導入により、従業員が設定された固定時間内に業務を終えるよう意識する傾向が強まる点もメリットです。固定残業制は残業時間を減らすほど、実質的な時給が上がるため、従業員のモチベーションにもつながります。

モチベーションが上がった結果、業務の効率化が進み、会社全体の生産性向上やコスト削減にもつながる可能性があります。

また残業時間が少なくなれば、労働災害リスクの軽減や、社員の健康維持といった効果も期待できるため、固定残業代は従業員の自主的な改善意識を促す仕組みとしても有効です。

従業員側のメリット

従業員にとって、固定残業代の大きなメリットは、収入が安定することです。残業をしていなくても固定残業代として一定額が毎月支払われるため、繁閑の差がある業種でも給与の波を抑えることができます。

また業務を効率化して残業時間を減らすことができれば、給与額を維持したまま自由な時間を増やすことも可能です。ワークライフバランスの実現に貢献しやすい制度といえるでしょう。

さらに固定残業時間を超えて働いた場合には、その超過分に対する残業代も正規に支給されます。「働かせ放題」のような制度ではないため、実際の労働に対する適正な報酬を受け取れる点も、従業員にとっての安心材料です。

固定残業代のデメリット

固定残業代制度は便利な一方で、導入や運用を誤るとトラブルの原因になりやすい側面もあります。特に実態にそぐわない設定や周知不足があると、企業にも従業員にも不利益をもたらしかねません。

ここからは、企業側・従業員側、双方の固定残業代のデメリットを見ていきましょう。

企業側のデメリット

企業側にとって固定残業代制度の導入は、コストの予測がしやすい反面、残業実態と乖離すると人件費の増加や労務トラブルにつながるリスクがあります。企業側の具体的なデメリットについて見ていきましょう。

残業代の支払いが増えることがある

固定残業代制度は実際の残業が少なかったとしても、あらかじめ設定された時間分の残業代を全額支払う必要があります。

たとえば、月20時間分の固定残業代がある場合、残業が5時間しかなくても20時間分を支給しなければなりません。「働いていない残業分」まで支払う形となり、特に残業の少ない職場では人件費がかさみます。

また固定残業時間を高めに設定してしまうと、基本給が相対的に高くなるため、採用競争力は高まるものの、結果として支払額の総額が上がり、企業の負担が増えることになるでしょう。

違法な長時間労働につながる可能性がある

固定残業代制度の内容を企業や管理職が正しく理解していなければ、違法な長時間労働やサービス残業が発生するリスクがあります。たとえば「固定残業代を払っているから、何時間残業しても追加は不要」と誤解してしまうケースです。

また「みなし残業時間分は必ず残業しなければいけない」といった誤った運用がなされることもあり、労働者の負担を増やしてしまう要因にもなりかねません。

制度を健全に運用するためには、従業員・管理職の双方が制度の趣旨とルールを正確に理解し、労働基準法を順守した労務管理を行うことが欠かせないといえるでしょう。

求人に関するトラブルになることがある

固定残業代制度は、求人票に「月給◯万円(固定残業代含む)」といった形で表示されることが多く、誤解を招く原因になりかねません。求職者がその金額を「すべて基本給」と勘違いして応募し、採用後にトラブルに発展するケースが増えています。

ハローワークなどでも、こうした賃金表示に関する誤認が問題視されており、厚生労働省は「基本給」「固定残業代」「その時間数と金額」「超過分への支払いの有無」などを明確に記載するよう求めています。

従業員側のデメリット

固定残業代の従業員にとってのデメリットは、以下のとおりです。

  • 実際の基本給が低く抑えられているケースがある
  • ブラックな運用をしている企業では「定額働かせ放題」の状態となる

固定残業制度は見かけの月給は高く見えても、実際の基本給が低く抑えられているケースがあります。そのため賞与や退職金などが基本給ベースで計算される場合に、将来的な収入に悪影響が出る可能性も否定できません。

また労働基準法に違反している企業では、固定残業時間を超えて働いても追加の残業代が支払われない「定額働かせ放題」の状態になっていることもあります。

制度の本来の趣旨を逸脱したブラックな運用が行われていると、従業員の権利が軽視され、過重労働の温床となりかねません。

固定残業代の計算方法

固定残業代には「手当型」と「基本給組み込み型」の2種類があり、それぞれ計算方法が異なります。

「手当型」は、基本給とは別に固定残業手当を支給する形式です。以下の計算式で算出します。

(給与の総額÷月の平均所定労働時間)×固定残業時間×1.25

たとえば、月給30万円、平均所定労働時間160時間、固定残業時間が20時間の場合、固定残業代は以下のとおりです。

(300,000÷160)×20×1.25=46,875円

一方で「基本給組み込み型」は、固定残業代を含んだ金額が基本給として設定されている制度で、以下の計算式で算出します。

基本給÷{所定労働時間+(固定残業時間×1.25)}×固定残業時間×1.25

たとえば、基本給が30万円、月の平均所定労働時間160時間、固定残業時間20時間の場合、固定残業代の内訳は以下のとおりです。

300,000÷{160+(20×1.25)}×20×1.25=約40,541円

さらに実際の残業時間が固定時間を下回った場合でも、固定残業代は満額支給されます。逆に残業時間が固定時間を超えた場合、超過分の残業代を追加で支払わなければなりません。

たとえば、上記例で10時間超過した場合、追加支給は以下の金額です。
(300,000÷160)×10×1.25=約23,438円

固定残業代で違法になる場合

固定残業代制度は正しく運用すれば便利ですが、運用を誤ると労働基準法や最低賃金法などの法令違反に該当する恐れがあります。ここからは、固定残業代が違法とされる主な4つのケースを見ていきましょう。

超過分の残業代を払っていない

固定残業代制度を導入していても、設定した固定残業時間を超える労働が発生した場合は、超過分に対して別途残業代を支払う義務があります。この点を誤解し、追加の残業代を支払わない企業が少なくありません。

たとえば、月20時間分の固定残業代を設定していて、実際には30時間働いた場合、超過した10時間分の割増賃金を支払わなければなりません。

支払いを怠ると、労働基準法第24条に定められた「賃金全額払いの原則」に違反します。

参考:e-GOV法令検索「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

休日・深夜労働分の割増賃金を適用していない

固定残業代制度は、通常の時間外労働に対する割増賃金をあらかじめ定額で支払う制度です。ただし、休日や深夜に働いた場合の割増賃金は以下のような割増額に応じた賃金を、別途支給しなければなりません。

  • 休日労働:135%
  • 深夜労働(22時~翌5時):125%
  • 深夜の時間外労働150%

休日・深夜分の割増を無視して一律で処理してしまうと、超過分の未払いと同様に労働基準法に違反します。

基本給が最低賃金を下回っている

固定残業代制度を採用していても、地域ごとに定められた最低賃金は適用されます。たとえ月給制であっても、所定労働時間で割り戻した1時間あたりの賃金が、最低賃金を下回っている場合は違法です。

たとえば、東京都の最低賃金が1,163円(2025年度)であれば、時間外労働の最低賃金は、1.25倍の1,454円です。

悪質な場合、基本給と固定残業代を合算しても最低賃金を満たさないケースがあり、最低賃金法違反に該当します。

参考:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧

45時間を超える長時間残業が設定されている

労働基準法に基づく36(サブロク)協定では、法定労働時間を超える残業の上限は原則月45時間までです。特別条項付き協定を結んだ場合を除き、この上限を超える固定残業時間を設定するのは好ましくありません。

仮に、80時間など過剰な固定残業時間を設定すると、公序良俗違反(民法60条)とみなされ、無効とされる恐れもあります。固定残業代制度の信頼性を損なわないためにも、45時間以内での設定が原則です。

固定残業代を導入するときに注意したいポイント

固定残業代制度を導入する際には、制度の正しい理解に加え、実態に即した設計や周知が重要です。トラブルを避けるためにも、制度設計から運用まで慎重に進める必要があります。

まずは導入前に残業時間を把握する

固定残業代制度を導入する前に、まず社内でどの程度の残業が発生しているかを調査し、正確に把握することが大切です。実態に合わない固定残業時間を設定してしまうと、常に超過残業が発生したり、逆に支払いが過剰になったりと、制度運用に無理が生じます。

たとえば、平均して月10時間程度しか残業がないにも関わらず、月30時間分の固定残業代を設定すると、企業側の人件費が膨らむ原因になります。

従業員の合意を得る

固定残業代を導入する際、基本給に上乗せして支払うのであれば、従業員にとって不利益にはならず、原則として同意は不要です。しかし制度導入によって基本給を引き下げる場合は、従業員にとって実質的な賃金の減額となるため「不利益変更」に該当します。

この場合は労働契約法などのルールに従い、対象者からの同意を得なければなりません。また導入後に固定残業代制度を廃止する場合も、それが従業員にとって不利益になると判断されれば、同意が必要です。

制度設計の自由度は高いものの、給与体系の変更が労働者の生活に直結する以上、事前に丁寧な説明を行い、合意形成を進める姿勢が重要です。

就業規則に明記しルールを周知する

固定残業代を導入した場合、就業規則に明記し、社内で周知する必要があります。特に固定残業代の対象時間や金額、超過分への対応について明確にしておかなければ、労使間の認識にズレが生じた場合、トラブルの元になりかねません。

ルールは就業規則に明記するだけでなく、管理職や従業員にも制度の目的と内容を共有することが重要です。特に「固定残業時間を超えた分も残業代が支払われる」という点は、誤解されやすいポイントなので、気をつけましょう。

求人情報にも明記する

固定残業代制度を導入したら、社内の就業規則だけでなく求人情報にも制度内容を明記することが必要です。特に次の3点は必須項目なので、注意してください。

  • 固定残業代を除いた基本給の額
  • 固定残業代に関する労働時間数・金額・計算方法
  • 超過労働分には別途割増賃金を支払う旨

情報が不十分な求人票は応募者に誤解を与え「思っていた条件と違った」といったトラブルにつながります。

特にインターネットの求人媒体ではテンプレートの流用などで情報の抜け漏れが起こりがちなので、掲載前に内容をしっかり確認し、法令で定められた項目を正確に記載しましょう。

参考:厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。

労働時間を管理する

固定残業代を導入すると毎月の賃金計算は簡略化されますが、労働時間の管理は継続して行う必要があります。理由は以下のとおりです。

  • 追加残業代を正確に支払うため
  • 未払残業代の請求を受けた際に、証拠として提示できるようにするため

設定した固定残業時間を超えて労働が発生した場合、その超過分に対しては別途残業代を支払わなければなりません。そのためには、日々の労働時間を正確に記録しておくことが欠かせないといえます。

また万が一未払い残業代の請求を受けた際、証拠として提示できるようにするためというのも、理由の一つです。労働時間の記録がなければ、企業側が主張を立証できず、不利になるリスクがあります。

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固定残業代とは、あらかじめ一定時間分の残業代を毎月定額で支給する制度です。固定残業代制度を適切に運用するには、日々の労働時間を正確に把握し、超過残業の早期発見と対応が欠かせません。

しかし手動での勤怠管理では、対応が遅れたり記録ミスが生じたりするリスクがあります。そこでおすすめなのが、勤怠管理ツールの導入です。

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