みなし残業とは?種類の違いや違法・トラブルとなるケースの例を紹介
- 記事公開日:
- 最終更新日:2025-06-12
- この記事の3つのポイント
- みなし残業は残業代を給与に含めて支払う制度で、固定残業制とみなし労働時間制に分けられる
- みなし労働時間制は事業場外労働と専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制に分けられる
- みなし残業は適切なら問題ないが、運用方法を誤ると違法・トラブルの元になるため注意が必要
みなし残業とは、定額の残業代を給与に含めて支払う制度です。
本記事では固定残業代制とみなし労働時間制の2種類の違いや、みなし労働制の3つのタイプ、メリット・デメリットを解説します。違法・トラブルにつながるケース例も紹介しているのでぜひご覧ください。
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みなし残業とは?種類の違いや違法・トラブルとなるケースの例を紹介
みなし残業とは?
みなし残業とは、あらかじめ一定時間の残業代を給与に含めて支払う制度です。主に「固定残業代制」と「みなし労働時間制」の2種類があり、仕組みや適用範囲が異なります。
最初に、それぞれの制度の特徴を順番に見ていきましょう。
固定残業代制(みなし残業制)
固定残業代制とは、あらかじめ一定時間分の残業代を給与に含めて支払う制度です。実際の残業時間に関わらず、設定された時間分の残業代が毎月固定で支払われます。
たとえば「月30時間分の残業代込み」と記載されている場合、その30時間までは残業をしてもしなくても、給与に含まれて支払われるのが特徴です。
固定残業代制は、従業員にとって毎月の収入が安定しやすいメリットがあります。
企業側はみなし時間を超えた場合、超過分の残業代を別途支払う義務があるほか、深夜や休日労働などに対する割増賃金も固定残業代に含まれるケースがあるため、制度の設定には注意が必要です。
固定残業代制は職種に関係なく導入できますが、残業代の内訳や設定時間など、明確に就業規則に記載しておくことが法令上求められています。
残業代の計算方法は、以下のページで詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
関連記事:固定残業代とは?みなし労働時間制との違いやメリット・デメリットを解説
みなし労働時間制
みなし労働時間制とは、実際の労働時間を記録・管理することが難しい業務において、あらかじめ定めた時間を働いたものと「みなして」給与を支払う制度です。
たとえば1日8時間の労働時間をみなす場合、実際の勤務時間が6時間でも10時間でも、給与は8時間分として支払われます。
ただし、みなし労働時間制が適用されるのは、社外での活動が多い営業職や出張の多い職種など、一部の職種・業務に限られており、すべての社員に一律に適用できるわけではありません。
そのため多くの企業ではまず固定残業代制を導入し、必要に応じてみなし労働時間制を併用しています。
みなし労働時間制は3つのタイプに分類される
みなし労働時間制は、すべての業種に一律で適用される制度ではありません。実際には、働き方の実態や業務内容に応じて、以下の3つに分かれます。
- 事業場外労働
- 専門業務型裁量労働制
- 企画業務型裁量労働制
それぞれの特徴や適用職種を見ていきましょう。
事業場外労働
事業場外労働とは、会社の外で働く時間が多く、企業が労働時間を正確に把握できない場合に適用される制度です。企業が社員に対して直接的な指示や管理を行うことが難しく、以下のように労働時間の計測が現実的でない職種が対象となります。
- 外回りの営業職
- 添乗員
- 在宅勤務者など
事業場外労働の対象職種は、社内での勤務に比べて柔軟性の高い働き方を支える一方で、労働時間の見落としによる過重労働には注意が必要です。
専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制とは、労働時間の使い方や業務の進め方を、社員の裁量に任せた方が効率的とされる職種に適用される制度です。
専門業務型裁量労働制が認められているのは、厚生労働大臣が定めた19種類の専門職に限られており、たとえば以下のような職種が対象となります。
- 弁護士、公認会計士などの士業
- 新技術・科学研究者、情報処理システム開発者
- テレビ・ラジオのプロデューサー、ディレクター
- コピーライター、編集者、デザイナー
- 建築士、インテリアコーディネーター、中小企業診断士 など
これらの職種では業務の特性上、労働時間よりも成果が重視される傾向があります。
参考:厚生労働省「専門業務型裁量労働制について」
企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制は、経営企画などの企画・調査・分析といった業務を対象に、社員に裁量をもたせて働いてもらう制度です。専門業務型と同様、仕事の進め方や時間配分は社員に委ねられ、企業は成果を重視した評価を行う前提で導入されます。
企画業務型裁量労働制の対象は、以下のような業務です。
- 経営企画、広報、人事、財務・経理
- 生産・営業における企画や分析業務
- 調査や立案、戦略立てを行うポジション
企業の本社や企画部門など、全体戦略を担う立場の業務で導入されるケースが多く、一般職種への適用は限定的です。企画業務型労働制は社員の自律性を活かせる反面、成果へのプレッシャーや長時間労働を防ぐ体制整備も重要といえるでしょう。
残業時間の概要や計算方法は、以下の記事でも詳しく解説しています。
関連記事:時間外労働とは?定義や法改正された上限規制内容、計算方法を解説
みなし残業制は事業場外労働・裁量労働でなくても導入可能
みなし残業制は、事業場外労働や裁量労働に該当しない職種でも、労働基準法の要件を満たしていれば導入できます。「みなし残業=特殊な働き方のみ」と誤解されがちですが、実際は企業の裁量で導入できる制度であり、広く一般的な職種でも適用されています。
みなし残業制を適切に運用するためには、基本給と固定残業代を明確に区分し、就業規則や雇用契約書に残業時間の上限を示すことが必要です。
みなし時間を超えた場合には、超過分の残業代を別途支払うなど、制度を正しく設定して明示することが重要です。
みなし残業のメリット・デメリット
みなし残業制度は、企業にも従業員にもメリットがある一方で、誤解や制度設計の不備によってデメリットが生じることもあります。みなし残業のメリットとデメリットを見ていきましょう。
メリット
企業側にとってみなし残業を導入する最大のメリットは、人件費の見通しが立ちやすくなることです。残業代を事前に固定化することで、毎月の賃金計算が簡略化され、経理や人事部門の負担を軽減できます。
従業員にとっても、たとえ残業が少ない月でも固定の残業代が支払われるため、収入が安定しやすく、生活設計が立てやすいメリットがあります。
残業代があらかじめ給与に含まれているため無駄な残業を避けて効率的に仕事を進めようとする意識が芽生え、業務改善につながる可能性も、メリットといえるでしょう。
またみなし労働時間制では、始業・終業の時刻が固定されていない場合も多く、個々のライフスタイルや働き方に応じた柔軟な時間管理が可能です。仕事の進め方も個人に委ねられるため、成果を重視する働き方にマッチし、モチベーションの向上にもつながります。
デメリット
みなし残業のデメリットは、実際には残業をしていない月でも固定残業代を支払う必要があるため、企業にとっては人件費がかえって高くつくケースがあることです。
従業員にとっても「月○時間の残業代を含む」と記載された給与体系は「その時間分は必ず残業しなければならない」という誤解を与える可能性があります。定時で帰りにくい空気を生んだり、サービス残業の温床となったりするリスクも否定できません。
また制度が適切に運用されていない場合「みなし時間を超えても残業代が出ない」と誤解され、トラブルに発展するおそれもあるため、超過分の残業代の支払いは必須です。
求人の場面でも、みなし残業は「残業が多そう」「ブラック企業」といったネガティブな印象をもたれることがあり、応募者数の減少につながることもあります。
みなし残業で違法・トラブルとなるケース
みなし残業制度は適切に運用されていれば問題ありませんが、運用方法を誤ると違法となったり、トラブルにつながったりすることがあります。ここからは、違法・トラブルになる具体例を見ていきましょう。
超過分の残業代や休日・深夜労働の割増賃金が未払い
みなし残業で違法やトラブルとつながる要因の一つは、設定した時間を超えた残業や休日・深夜労働があった場合は、その分の割増賃金を支払わなければならない点です。
たとえば、月20時間の固定残業代が設定されている従業員が30時間残業した場合、超過した10時間分の残業代は別途支払わなければなりません。休日出勤や深夜労働についても、固定残業代に含まれていない限り法定どおりの割増賃金が必要です。
これを怠ると労働基準法違反となり、行政指導や是正勧告の対象になります。
また企業は、従業員の労働時間を正確に把握・管理する義務があります。「固定残業だから管理不要」という誤った認識で労働時間の記録を怠ると、トラブルの元となる可能性があるため、注意しましょう。
就業規則・給与明細に必要事項を明記していない
就業規則や給与明細に必要事項を明示していないケースも、トラブルになりかねません。みなし残業制度を適法に運用するには、雇用契約書や就業規則、給与明細に以下の3点を明記する必要があります。
- 固定残業代を除いた基本給の金額
- 固定残業代に該当する時間数とその金額
- 固定残業時間を超えた残業や深夜・休日労働に対する割増賃金を別途支払うこと
条件が曖昧なままだと、従業員との間で給与や労働条件に関する誤解が生じ、トラブルにつながるおそれがあります。
また、給与明細には固定残業代の金額や超過残業時間を記載し、労働時間と給与の透明性を担保することも重要です。法令に準拠した明記と社内での周知を徹底することで、後のリスクを回避できます。
基本給が最低賃金を下回る
みなし残業代を給与に含める際に基本給を下げすぎてしまうと、最低賃金法に違反するおそれがあるため、気をつけましょう。最低賃金は都道府県ごとに定められた時給で、固定残業代を除いた「基本給+一定の手当」で判断されます。
たとえば2025年5月現在、東京都は最低賃金が1,163円です。月の所定労働時間が172時間だった場合、基本給が約20万円以上でなければなりません。
残業代を多く見せかけるために基本給を不自然に低く設定してしまえば、結果的に「最低賃金を下回る給与」となってしまい、罰則の対象となります。毎年見直される最低賃金に合わせ、基本給の金額が適正かどうかを定期的に確認しておくことが不可欠です。
みなし残業時間が45時間を超える
みなし残業時間を設定する場合、36(サブロク)協定で定める時間外労働の原則上限である「月45時間」を超えてはいけません。
法律上、45時間を超える残業は「臨時的・一時的な特別の事情がある場合」に限り許可されるもので、みなし残業のように毎月継続して超過する設定は違法です。
仮に毎月50時間の固定残業代を設定していると、法令違反に加え、従業員に長時間労働を強いる契約内容となり、健康被害や訴訟のリスクが高まります。みなし残業を導入する際は45時間を上限とし、実態に即した適切な時間設定を行うことが求められます。
みなし労働時間制で始業・終業時間を定める
みなし労働時間制では、原則一方的に契約で始業・終業時刻を定めることはできません。みなし労働時間制の根本的な考え方は、労働者に時間の使い方を任せるという点にあるためです。
たとえば企画業務型裁量労働制や事業場外労働型で契約しているにも関わらず、勤務時間を固定で指定してしまうと、制度の趣旨と矛盾し、制度として無効になるおそれがあります。
目安の勤務時間として時間を提示することは可能なので、契約書に「定時」の明記を避け、制度の特性を活かした表現にすることが重要です。
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みなし残業制度とは、あらかじめ定めた残業代を給与に含めて支払う仕組みです。みなし残業制度は企業と従業員の双方にメリットをもたらす一方で、運用を誤ると違法やトラブルにつながるリスクもあります。
制度の内容や適用条件を正しく理解し、適法かつ透明性のある運用が重要で、特に労働時間の管理や明示は、トラブル回避のために欠かせません。みなし残業制度を適切に管理・運用するためには、バクラク勤怠の導入がおすすめです。
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