法人決算は自分でできる?税理士なしで進める手順や判断基準について解説

法人決算を自分で行うことは可能ですが、手続きや必要書類が多く、細かな知識と準備が求められます。税理士に依頼せずに進める場合、作業を進める手順や専門家のサポートを検討するタイミングを理解することが重要です。

本記事では、法人決算を自力で進める際の流れや必要な知識、また、税理士に依頼する判断基準について詳しく解説します。

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法人決算は自分でできる?税理士なしで進める手順や判断基準について解説

そもそも法人決算とは

法人決算とは、企業が事業年度ごとに収益・費用・資産・負債を集計し、財務状況と経営成績を確定する法的義務を伴う手続きです。法律により決算書作成が義務付けられており、規模を問わずすべての法人が実施します。

主な目的は財務状況の正確な把握で、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書などの法定書類を作成します。

決算日の翌日から2カ月以内に税務署へ申告書を提出する必要があり、たとえば3月31日決算の企業は5月31日が期限です。決算期は企業が自由に設定可能で、任意の期間を選択できます。個人事業主と異なり、法人は決算期の柔軟性が特徴です。

法人決算は税理士なしでも可能

法人決算は税理士なしで可能であり、経営者や経理担当者が独自に行えます。会社法や法人税法上、決算書作成は義務ですが、税理士の専門資格の有無を問いません。

特に、売上1,000万円以下の小規模法人や取引が単純なケースでは、会計ソフトを活用しつつ自力で対応する事例も存在します。

しかし、以下の表のとおり、法人税申告の約9割に税理士が関与しています。これは、減価償却方法の選択や引当金計上など専門判断を要する事項が多く、税法改正への対応が難しいためです。

税理士関与割合(所得税・相続税・法人税)(単位:%) 

年 度

令和元年度

2年度

3年度

4年度

5年度

所得税

20.6

21.1

21.0

20.4

20.4

相続税

85.7

86.1

86.1

85.9

86.3

法人税

89.3

89.4

89.5

89.5

89.8

出典:財務省「令和5 事務年度 国税庁実績評価書

知識不足による申告ミスは追徴課税のリスクを高め、粉飾決算と疑われれば刑事罰の対象となる可能性もあります。税務調査対応や節税アドバイスを得るため、少なくとも初年度は税理士に依頼するのがおすすめです。

法人決算を自分でするメリット

法人決算を自分でする主なメリットは、以下の3点が挙げられます。

  • コスト削減
  • 経営状況の把握
  • 専門知識の習得

税理士に法人決算を依頼すると、15万〜25万円程度かかります。売上規模の小さい事業者にとっては決して少額とはいえないため、これを節約できるのは大きな利点です。

さらに、自ら決算書を作成する過程で収支や資産状況を細かく分析できるため、財務状況の正確な把握や経営戦略の策定に役立ちます。また、簿記や税法の知識が自然と身につき、今後の経営判断や節税対策に活用できる点もメリットです。

法人決算を自分でするデメリット

法人決算を自社で行う主なデメリットは、以下の4点が挙げられます。

  • 専門知識の不足
  • 業務負担の増加
  • 節税機会の損失
  • 税務リスクの上昇

税法や会計基準などの専門知識が不十分な場合、決算書作成時に誤った処理が生じやすいです。特に、複数の会計処理方法が混在するとミスが起こりやすく、修正作業や追徴課税につながります。

決算業務に要する業務負担も無視できません。慣れない作業のため調べ事が頻発し、本業の生産性を低下させる恐れがあります。中小企業では限られた人員が決算対応に追われることで、営業活動や顧客対応が滞るケースも想定されるでしょう。

さらに、税理士が提供する節税アドバイスを受けられないため、最適な節税策を見逃してしまい、税負担が増加するリスクがあります。税制改正の情報収集が遅れたり、財務改善のノウハウを活用できなかったりすることもデメリットです。

最も懸念すべき点は、税務調査時の対応リスクです。専門家のチェックを受けていない書類は不備が指摘されやすく、調査が長期化すると追加資料の準備や説明業務が大きな負担になります。

税理士が関与していない決算書の場合、外部専門家のサポートも限定的となり、納得できない課税処分を受けるケースも少なくありません。想定外のペナルティや利息負担が生じれば、コスト削減のメリットを相殺する結果にもなり得ます。

自分で法人決算をするか判断する際の基準

売り上げが少ない、ひとり社長、会計システムを導入している場合は、法人決算を自分で行うことも視野に入れましょう。

売り上げが少ない

年間売上高が1,000万円未満で法人税納税額が100万円以下、または赤字で納税見込みがない場合、会計処理は単純です。自分で法人決算をすることも可能でしょう。

ひとり社長

従業員不在の一人体制や、一人で運営しているプライベートカンパニー、マイクロ法人の場合、取引先・業務量・経費項目が限定されていれば、自分で法人決算が可能です。

ひとり社長は業務スケジュールを柔軟に調整できるため、決算期に集中対応しやすい点も強みです。

効率化できる会計システムを導入している

会計ソフトを導入済みの場合、仕訳データを基に決算書類を自動生成できるため、一定の簿記知識があれば自力で対応できます。

特に、クラウド型の会計システムでは経費精算から貸借対照表作成まで一貫処理でき、作業効率が大幅に向上します。手書きや表計算ソフトで記帳している場合は、計算ミスや不備が発生しやすいので注意しましょう。

法人決算に必要な書類

法人決算に必要な書類には、以下のようなものがあります。

  • 決算報告書
  • 総勘定元帳
  • 請求書
  • 領収書
  • 賃金台帳
  • 法人事業概況説明書
  • 法人税申告書
  • 消費税申告書
  • 地方税申告書
  • 勘定科目明細書類
  • 税務代理権限証書(税理士に依頼した場合)

決算報告書は、貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表・販売費及び一般管理費の明細などが該当します。

具体的な必要書類や決算書の作成手順は、以下の記事をご覧ください。

関連記事:決算書の作り方とは?必要書類や作成手順、効率化のポイントを解説

法人決算の手順

法人決算の手順を見ていきましょう。会計ソフトを活用すれば、すべての工程が容易になります。

帳票整理

領収書や請求書などの帳票は、取引発生時に科目別に分類し、月次ベースで電子化・ファイリングしておきましょう。欲しい情報がすぐに見られるようにしておくことで、決算時の作業負担を大幅に軽減できます。

帳簿の入力と確認

整理済みの帳票を基にして、会計ソフトへデータ入力しましょう。入力時に勘定科目が合っているかどうかを確認することで、ミスの早期発見が可能になります。

少額取引であったとしても、月次ベースで仕訳帳と総勘定元帳の整合性をチェックしておきましょう。修正が必要な箇所は随時リスト化し「決算整理仕訳」として修正処理を行います。

試算表の作成

試算表とは、日々の記帳の正当性を確認するための集計表のような書類です。会社の売上や支出、もっている資産や抱えている負債などをまとめた一覧表で、決算書を作成するための基本となるデータです。月ごとや一定の期間など、定期的に作成します。

帳簿のデータと実際の残高が合致していたら計算表を作成し、借方・貸方の合計値が合っているか確認しましょう。合計値が異なる場合、どこかにミスが生じています。仕訳やデータ入力を再度見直してください。

会計ソフトを導入すると、仕訳入力時に自動的に総勘定元帳が更新され、リアルタイムで試算表を生成できるため、人的ミスを削減できます。

決算整理仕訳

決算整理仕訳とは、会計年度の締めにあたって、取引内容を適切に期間対応させるために行う作業です。

具体的には、まだ受け取っていない収入や、支払いが完了していない費用など、期をまたぐ取引を整理して帳簿を修正します。また、在庫の実地棚卸を行って資産の残高を確認したり、固定資産の減価償却を反映させたりすることも含まれます。

決算整理仕訳を終えたら、修正後の試算表を再確認し、これを基に最終的な決算書類を作成しましょう。

決算書の作成

法人の決算書類は、その年度における経営成績や財政状況を示す資料で、主に以下のような書類を作成します。

書類

概要

貸借対照表(B/S)

決算日時点での資産、負債、純資産の状況をまとめた一覧表

損益計算書(P/L)

一年間の売上や費用を集計し、最終的な利益や損失を示す書類

株主資本等変動計算書(S/S)

期中の資本金や利益剰余金など、株主資本の増減を記録した書類

キャッシュフロー計算書(C/F)

現金の流れを営業活動、投資活動、財務活動の3区分に分けてまとめたもの

※上場企業や一部企業では作成が義務付けられている

個別注記表

貸借対照表や損益計算書の内容に関する補足情報を記載した資料

計算書類に係る附属明細書

計算書類をさらに詳しく説明するための補足資料

事業報告書およびその附属明細書

会社の1年間の事業内容や経営状況を報告するための文書

なお、非上場企業では、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表を作成するのが一般的です。

この段階では、まだ法人税の確定計算は済んでおらず、損益計算書では「税引前利益」までしか確定していません。法人税の計算後、最終的な決算書が完成します。

取締役会・株主総会での承認

一般的な株式会社では、まず取締役会で決算書案を承認し、その後株主総会で正式に承認されます。

一方で、社長と株主が同一人物である「一人会社」の場合、自身で承認手続きを行うことになるため、特別な手間はかかりません。

ただし、形式上、株主総会議事録は必ず作成しておきましょう。併せて、この議事録の中で役員報酬の変更などの決議も行っておくとスムーズです。

株主総会で承認を得た決算書は、正式に「確定決算」となり、これを基に法人税の申告手続きを進めます。

税申告書類の作成・納税

株主から決算書の承認を得たあとは、その決算書を基に法人税申告書を作成します。法人税申告書は国税庁のホームページからダウンロード可能ですが、内容が非常に複雑なため、多くの企業では税理士に作成を依頼するのが一般的です。

法人が申告すべき税金には、主に次の4種類があります。

  • 法人税
  • 消費税(課税事業者のみ)
  • 法人事業税
  • 法人住民税(都道府県民税・市町村民税)

これらの税金は、それぞれ申告先が異なります。法人税と消費税は税務署に、法人事業税と法人住民税は都道府県税事務所や市区町村役場に申告しましょう。

いずれの税金も、原則として事業年度終了日の翌日から2カ月以内に申告と納付を完了させなければなりません。提出を忘れると延滞税などが発生する可能性があるため、期限管理には注意が必要です。

法人税申告書の書き方やダウンロードできるページは、こちらの記事で紹介しています。

関連記事:税務申告書とは?法人税申告書の書き方やダウンロードできるページについて解説

書類の保管

決算書類や税務関連書類は、法律に基づいて一定期間保管しましょう。

決算に関連する書類(貸借対照表、損益計算書、個別注記表など)は、会社法では原則10年間、法人税法では7年間の保存が求められています。

保存期間は書類の種類や根拠となる法律によって異なるため、対象書類を正確に把握し、それぞれの期間に従って保管し続けなくてはなりません。

また、2022年1月から「電子帳簿保存法」が施行されました。メールなど電子的な手段で授受した請求書や領収書については、紙ではなく電子データのまま保存することが義務付けられています。

法人決算をスムーズに進める方法

法人決算をスムーズに進める方法を紹介します。

自動化できる会計ソフトを活用する

法人決算をスムーズに進めるためには、会計ソフトの導入が非常に有効です。

日常の取引は、日付や金額、取引先、勘定科目など細かな情報を記録していく必要がありますが、これを手作業や表計算ソフトだけで管理するのは大きな負担になります。

会計ソフトを活用すれば、取引の入力作業を自動化できるだけでなく、入力データを基に貸借対照表や損益計算書などの決算書類を自動で作成できます。書類の形式や記載ルールに悩む手間も削減できるでしょう。

また、クラウド型の会計ソフトを利用すれば、銀行口座やクレジットカードと連携してデータを自動取得できるため、記帳ミスや入力漏れも防ぎやすくなります。特に、自力で決算を進める場合には「ミス防止」機能が大切なポイントと言えるでしょう。

さらに、将来的に税理士にサポートを依頼する場合でも、あらかじめ会計ソフトで帳簿をつけておけば、データの引き継ぎがスムーズです。自分で仕訳まで行い、決算や申告業務のみを専門家に任せる「ハイブリッド型」の運用も選択肢の一つとして検討しましょう。

正確な知識を身につける

法人の決算には必要書類も多く、複雑で知識が必要です。知識がないと、税務調査で指摘されるような事態に陥りかねません。

法人決算を進める上で理解しておくべき法律には、法人税法、租税特別措置法、会社法、そして会計基準が含まれます。これらは決算書類の作成や税務申告において基盤となるルールのため、正確に把握しましょう。

また、決算書類として必要な貸借対照表や損益計算書を正確に作成するためには、会計の基礎知識が不可欠です。決算書類に誤りがあると、その後の税務申告にも影響を与えるため、財務諸表作成のスキルは事前に習得しておくことが大切です。

加えて、税務署から求められる書類を迅速に提出できるよう、すべての書類を適切に保存しておくことも忘れないようにしましょう。

わからないことは税務署で相談する

法人決算について疑問点があれば、税務署に相談しましょう。決算整理仕訳についても、税務署の専門家から適切なアドバイスを受けられます。

税務署への相談は、無料なうえ、税務に精通した専門家から正確な回答が得られる点がメリットです。民間の専門家に相談する場合は有料になることが多いため、まずは税務署に問い合わせるのがおすすめです。

参考:国税庁「税についての相談窓口

会社の規模が大きくなったら無理をせず税理士に相談する

会社が成長し規模が大きくなると、決算作業や税務申告が複雑になり、専門的な知識が求められる場面が増えます。無理に一人で対応するのではなく、税理士に相談することを検討しましょう。

税理士は最新の税法や会計基準に精通しており、会社にとって最適なアドバイスを提供してくれます。さらに、税務調査や申告の際にもサポートを受けられるため、リスク管理や効率化にも役立ちます。

規模の拡大に合わせて、専門家の力を借りることで、業務の負担を軽減できるでしょう。

まとめ

法人決算を自分で進めることは可能ですが、適切な知識と準備が必要です。

まず、日々の取引を正確に記帳しましょう。会計ソフトを活用することで、手間を省きつつ効率的に作業を進められます。その後、決算整理仕訳や税務申告書作成を行いますが、法人税法や会社法などをしっかり理解しておくことが重要です。

しかし、作業が複雑になったり会社の規模が大きくなったりすると、税理士の助けが必要な場合もあります。自分でできる範囲と専門家に依頼すべき範囲を判断し、適切に進めていくことが、法人決算をスムーズに進めるポイントです。