法定福利費とは?計算方法や仕訳例、福利厚生費との違いなど解説
- 記事公開日:
- 最終更新日:2024-11-01
法定福利費とは、企業が法律に基づいて従業員のために負担する社会保険料や労災保険料などの費用を指します。企業にとって重要な経費の一部であり、従業員の生活保障や福祉向上に役立つ制度ですが、具体的な内容や計算方法、仕訳方法については複雑に感じることも多いでしょう。
本記事では、法定福利費の基本的な概要から、計算方法や仕訳の具体例、福利厚生費との違いまで、わかりやすく解説します。これを機に、法定福利費に関する知識をしっかりと身につけましょう。
法定福利費とは?計算方法や仕訳例、福利厚生費との違いなど解説
法定福利費とは
法定福利費とは、企業が法律に基づいて負担する従業員の社会保険料や労災保険料などの費用を指します。この費用には、厚生年金保険、健康保険、雇用保険などが含まれており、企業はこれらを従業員のために一部負担する義務があります。
法定福利費は、従業員の生活保障や福祉の向上を目的としており、企業にとっては大切な社会的責任の一環となっています。
法定福利費の対象例
法定福利費の対象例は主に6つあります。それぞれについて詳しく解説します。
厚生年金保険
厚生年金保険は、主に会社員や公務員が加入する年金制度であり、老後の生活を支えるための基礎年金に加えて上乗せされる仕組みです。この保険の保険料は、労働者と事業主が折半して負担し、一定の年齢に達すると、年金として受給することができます。
また、厚生年金保険には障害年金や遺族年金の給付も含まれており、万が一の際には生活を支える役割を果たす重要な制度です。
健康保険
健康保険は、会社員やその家族が病気や怪我をした際に、医療費の一部を負担してもらえる重要な制度です。この制度の保険料は、労働者と事業主が折半して支払い、毎月の給与から控除される形で徴収されます。
具体的には、医療機関での診療費や薬剤費が一部軽減され、自己負担額が抑えられるため、必要な治療を受ける際の経済的負担が大幅に軽減されます。さらに、健康保険には出産時に給付される出産育児一時金や、高額な医療費がかかった際に負担額を一定水準に抑える「高額療養費制度」なども含まれます。
介護保険
介護保険は、40歳以上の国民が加入する保険制度で、介護が必要になった際に介護サービスの費用を補助する仕組みです。保険料は給与から天引きされるか、自治体を通じて納付され、サービス利用時には自己負担割合が設けられています。
この制度により、家庭での介護負担を軽減し、必要な場合には専門的な介護サービスを利用できる環境が整えられています。
雇用保険
雇用保険は、労働者が失業した場合や出産・育児休業を取得した際に、給付金を受け取ることができる重要な社会保険制度で、労働者と事業主が共同で負担し、毎月の給与から控除されます。
特に失業した場合には、求職者給付金を受け取ることができ、再就職活動中の生活費を補う役割を果たします。また、雇用保険には、雇用継続を支援する「再就職手当」や「職業訓練給付金」など、再就職を促進するための給付制度も含まれています。さらに、育児休業を取得した際には「育児休業給付金」を受け取ることができ、出産後も一定期間安心して子育てに専念することが可能です。
労災保険
労災保険は、労働者が業務中に怪我をしたり、職業病にかかったりした場合に、治療費や休業補償を受けることができる保険制度です。保険料は事業主が全額負担し、労働者が負傷や病気で働けない期間中の賃金を一定割合補償します。
また、労災による後遺障害や死亡時には、遺族に対して給付金が支給される制度もあり、労働者やその家族を支える重要な役割を担っています。
子ども・子育て拠出金
子ども・子育て拠出金は、企業が負担する税金の一部で、子育て支援や保育サービスの向上を目的として徴収されるものです。この拠出金は、主に保育所、幼稚園、認定こども園、学童保育などの施設の運営資金として活用されており、働く親が安心して子育てと仕事を両立できる環境を整えるための重要な財源となっています。
また、子育てにかかる経済的負担を軽減することを目指しており、地域によっては特定の支援事業や保育施設の拡充に使われることもあります。
法定福利費の計算例
法定福利費の計算例を6つの対象ごとに解説します。
厚生年金保険料の計算方法
厚生年金保険料は、従業員の賃金に基づいて算出される「標準報酬月額」の18.3%を基準に計算され、そのうち従業員と事業主がそれぞれ9.15%を負担します。標準報酬月額は、賃金額に応じて1等級から32等級までの区分に分類され、各従業員に適用される等級が決定されます。
この標準報酬月額は、毎年4月、5月、6月の3か月間の賃金を平均して定められる「定時決定」によって確定されますが、賃金に大きな変動があった場合は「随時改定」によって見直されます。
健康保険料の計算方法
健康保険料は、従業員の標準報酬月額に、健康保険組合が定めた保険料率を掛けて算出され、保険料は従業員と事業主が半分ずつ負担することになっています。例えば、全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入する東京の企業では、介護保険第2号被保険者に該当しない場合の保険料率は9.81%、該当する場合は11.45%となります。
介護保険第2号被保険者とは、40歳から64歳までの医療保険加入者を指し、該当者には介護保険料が加算されます。また、保険料率は地域や健康保険組合によって異なる場合があり、それに応じて負担額も変動します。
介護保険料の計算方法
介護保険料は、従業員の標準報酬月額に介護保険料率を掛けて算出され、従業員と事業主が折半して負担します。例えば、協会けんぽに加入している東京の企業の場合、2022年度の介護保険料率は1.64%です。
介護保険料は、40歳から64歳までの「介護保険第2号被保険者」に該当する従業員に適用され、毎月の給与から控除されます。標準報酬月額に基づくため、賃金に応じて負担額が変動しますが、介護が必要な高齢者の生活を支えるための資金として重要な役割を果たしています。
雇用保険料の計算方法
雇用保険料は、事業の内容に応じて異なる保険料率に基づき、従業員と事業主の双方が負担しますが、事業主の負担割合が大きく設定されています。保険料は毎月の給与から控除され、雇用保険の対象となる失業給付や育児休業給付などの給付金の財源として活用されます。
具体的には、一般事業での雇用保険料率は従業員と事業主で異なるため、各企業の業種に応じて異なる割合での負担が発生します。
労災保険料の計算方法
労災保険料は、事業内容に応じて異なる料率に基づき、賃金総額の0.3%から8.8%の範囲で計算されます。この保険料は全額を事業主が負担し、従業員は負担しません。
労災保険料は、労働者が業務中に怪我をしたり、職業病にかかったりした場合の治療費や休業補償を賄うためのものであり、年間の賃金に料率を掛けて一括で納付されます。月々の給与計算時に個別に算出する必要はなく、1年分をまとめて納付する形をとります。
子ども・子育て拠出金の計算方法
子ども・子育て拠出金は、企業が全額負担する法定福利費であり、従業員に対する負担はありません。この拠出金は、各従業員の標準報酬月額または標準賞与額に0.36%の料率を掛けて算出されます。
拠出金は、保育所や幼稚園、学童保育などの運営に必要な資金として活用され、社会全体の子育て支援に貢献します。企業がこの拠出金を通じて支援することで、働く親たちが安心して子育てと仕事を両立できる環境が整えられています。
法定福利費の仕訳例
法定福利費の仕訳例も解説します。ぜひ参考にしてください。
給与支払い時の法定福利費の仕訳
従業員に給与を支払う際には、会社が負担する法定福利費(社会保険料や労災保険料など)の仕訳が必要です。
例えば、6月の給与総額が1,000,000円で、そのうち会社が法定福利費として50,000円を負担する場合の仕訳は次の通りです。まず、給与手当として1,000,000円を従業員に支払い、さらに会社が負担する社会保険料などの50,000円を法定福利費として計上します。
仕訳の例:
- 借方: 給与手当 1,000,000円
- 借方: 法定福利費 50,000円
- 貸方: 現金預金 1,050,000円
この仕訳により、給与手当として1,000,000円が計上されると同時に、会社が負担する50,000円が「法定福利費」として別途計上されます。事業主負担分の法定福利費は会社の経費として処理されるため、従業員の給与支払いに加えてこの負担額が全体の支出として計上されることになります。
法定福利費の納付時の仕訳
毎月末に、従業員と事業主が負担する社会保険料などの法定福利費をまとめて納付する際には、事業主負担分と従業員負担分をそれぞれ区分して処理します。例えば、事業主負担分の法定福利費が50,000円、従業員負担分が30,000円で、合計80,000円を納付する場合、次のような仕訳が行われます。
仕訳の例:
- 借方: 未払費用(法定福利費) 50,000円
- 借方: 預り金(従業員負担分) 30,000円
- 貸方: 現金預金 80,000円
この仕訳では、事業主が負担する50,000円が「未払費用(法定福利費)」として計上され、従業員の給与から天引きされた30,000円が「預り金」として処理されます。最終的に、現金預金から一括で80,000円が支払われ、社会保険料の納付が完了します。
福利厚生費との違い
法定福利費は、企業が法律で義務付けられている費用であり、従業員の社会保険料や労災保険料などを指します。具体的には、健康保険や厚生年金保険、雇用保険、労災保険などの保険料のうち、企業が負担する分がこれに該当します。
一方、福利厚生費は企業が自主的に従業員の福利や生活向上を目的として提供するものであり、社内イベント、健康診断、社員旅行などが含まれます。法定福利費は、法律に基づいて強制的に支払う義務があるのに対し、福利厚生費は企業が独自に設定する任意の費用であり、従業員に対する福利厚生を強化するために使用されます。
法定福利費を支払わないと「法律違反」になるので注意
法定福利費を企業が支払わないことは、法律違反に該当します。法定福利費は、企業が従業員の社会保険料や労災保険料などを負担することが法律で義務付けられており、これを怠ると罰則や行政指導の対象となります。
法定福利費を適切に支払わない場合、企業は行政機関からの指導や、最悪の場合には罰金が科されることもあります。また、法定福利費は従業員の生活や健康を保障する重要な制度であるため、企業がこの義務を果たすことは従業員の権利保護にもつながります。
まとめ
法定福利費は、企業が従業員の社会保険料や労災保険料を負担するために法律で義務付けられた重要な経費です。適切に計算し、仕訳処理を行うことで、企業の法的義務を果たし、従業員の福利を守ることができます。
また、福利厚生費は企業が自主的に提供する費用であり、法定福利費とは異なる性質を持っています。両者の違いを正確に理解し、適切に管理することが企業運営において不可欠です。
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