農家へのインボイス制度への影響は?農業が仕入税額控除を受けられる特例を紹介

農家にとって、2023年10月1日から開始したインボイス制度の影響は、決して少なくないといえます。インボイス制度によって課税事業者に転じるべきか、免税事業者として営業を続けるかで悩む農家の人も多いでしょう。

この記事ではインボイス制度が農家の事業へ与える影響、考え方などを解説します。インボイス制度への対応に迷っている場合はぜひ参考にしてください。

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農家へのインボイス制度への影響は?農業が仕入税額控除を受けられる特例を紹介

インボイス制度の農家への影響

農家の事業に対して、インボイス制度はどのように影響しているのでしょうか。実際に多くの農家がどのように対応しているかを見てみましょう。

農家は免税事業者が多い

現状では、農家には免税事業者が多いことが想定されます。なぜなら、卸売市場や農協などで委託販売を行う際に、インボイスの発行を求められることがなく、以前と同様に取引が継続できているためです。

ただし、農家が免税事業者のままでいると適格請求書を発行できないため、課税事業者となっている取引先は、農家との取引にかかる消費税額分の仕入税額控除を適用できず、税負担が大きくなってしまいます。

そのため、農家側が取引内容の見直しを迫られたり、価格の交渉に応じることを求められたりする可能性があるでしょう。

課税事業者となる農家もある

農家のなかには、課税事業者になることを選択する人もいます。税務署で適格請求書発行事業者の登録申請を行うことで課税事業者となり、適格請求書の発行が可能です。

取引先が課税事業者の場合、課税事業者である農家との取引にかかる消費税額分が、仕入税額控除の対象となるため、取引先への影響が出ません。取引先からも、適格請求書を発行できないことを理由に取引を減らされたり、価格交渉されたりする心配がなくなるでしょう。

ただし課税事業者になれば、消費税の納税義務者として申告と納付が発生します。確定申告にともない、消費税の納税を忘れないようにしなければなりません。

ケース別・農家への影響

ここでは、インボイス制度によって想定し得る農家への影響を具体的に解説します。

課税事業者が農産物を購入するケース

課税事業者が農産物を購入する場合、農家が免税事業者か課税事業者かによって影響が異なります。

農家が免税事業者の場合はインボイスを発行できないため、購入代金のうち消費税分は、購入者である課税事業者が仕入税額控除を受けられません。したがって別の農家との取引を検討されてしまったり、農産物価格の引き下げを要求されたりする場合があります。

農家が課税事業者であればインボイスを発行できるため、購入者は仕入税額控除を受けられます。ただし、後日消費税分の納税を行わなければなりません。

免税事業者が農産物を購入するケース

購入者が免税事業者だと、仕入税額控除をする必要がないため、インボイスも不要となります。

したがって販売者が免税事業者でも、課税事業者でも、どちらでも影響はないといえます。農産物の購入について、値引きや取引中止を要望されることもないでしょう。

農家が仕入れをするケース

種苗や肥料、農機具などの仕入れをする場合、仕入れを行う農家と仕入先が免税事業者・課税事業者どちらであるかによって、それぞれ影響が異なります。

農家が免税事業者の場合、仕入れ先が免税事業者・課税事業者のどちらでも影響はありません。ものの購入価格は変わらず、消費税の納税義務もないためです。

一方、農家が課税事業者の場合、仕入先も課税事業者であればインボイス交付によって仕入税額控除が適用されます。納税する消費税額のなかから、仕入分の税額を控除可能です。

ところが、農家が課税事業者で仕入先が免税事業者の場合は、インボイスが発行されず仕入税額控除を受けられません。そのため消費税負担が大きくなってしまいます。

上記で紹介したいずれのケースにおいても、免税事業者との取引では消費税の負担が増える可能性があります。

しかし、税負担の補填を目的に取引条件の見直し交渉を行うと、下請法や独占禁止法などに違反してしまう可能性があり注意が必要です。

例えば、取引で仕入税額控除が受けられないことを理由に、価格の引き下げを一方的に要求すると独占禁止法違反とみなされる場合があります。

また、取引先が免税事業者であるからといって、商品・役務の成果物を受領拒否すると優越的地位の濫用として問題となります。

どのような行為が問題となるのか、具体的には下記の「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」で確認可能です。

※参考:免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A

農家がインボイス交付を免除される特例

前述したように、農家が課税事業者となっていればインボイス交付が必要です。しかし、農家にはインボイス発行義務を免除される特例が設けられています。農家のインボイス特例について解説します。

農協特例

農協特例とは、売り手のインボイス交付を免除し、JA(農協)がインボイスを発行する制度です。売り手がインボイス未登録でも利用できます。

ただし、無条件委託方式による販売、および共同計算方式による精算が要件となります。無条件委託方式は、条件をつけずに販売を委託することです。共同計算方式は、一定期間内に出荷した農産物の平均価格で精算する方法になります。

※参考:インボイス制度|JAグループ

卸売市場特例

卸売市場特例とは、特例の対象となる卸売市場が、売り手の代わりにインボイスを発行する制度です。卸売市場を通した販売では、売り手によるインボイス発行が難しいため交付が免除されます。

特例の対象となるのは、農林水産大臣・都道府県知事の認定、もしくは農林水産大臣の確認を受けた卸売市場です。農協特例と同じく、売り手が必ずしもインボイスに登録している必要はありません。

※参考:適格請求書等保存方式(インボイス制度)における卸売市場特例の対象となる卸売市場について|農林水産省

媒介者交付特例

媒介者交付特例とは、代理交付と同じように媒介者が代理でインボイスを交付できる制度です。

適用するためには、販売者・媒介者ともにインボイスの登録が必要です。

媒介者交付特例では媒介者の名称や登録番号を記載できるため、取引先や商品数が多い店舗に適しているといえるでしょう。例えば、農協におけるJAファーマーズマーケットでの委託販売などが該当します。

※参考:3 適格請求書の交付方法|国税庁

簡易課税制度の適用

簡易課税制度を導入する取引先の場合、インボイスが必要ありません。

簡易課税とは、消費税の簡易的な計算が認められる制度です。適用される事業の場合は、みなし仕入率を用いて消費税を計算できるため、インボイスを発行しても消費税計算には影響がなく、発行する意味自体がないということになります。

簡易課税制度については、以下の記事も参照してください。

消費税の「仕入税額控除」とは? 計算方法・仕組み・要件をわかりやすく解説

※参考:No.6509 簡易課税制度の事業区分|国税庁

農家がインボイス制度で押さえるべき点

農家がインボイス制度において押さえておくべき点は、以下のとおりです。

免税事業者・課税事業者どちらを選ぶか

インボイスを発行できる課税事業者になるべきか、そうでない免税事業者であるべきかを見極めるには、次のようなポイントがあります。

免税事業者が向くケース

農家で免税事業者が向いているケースは、取引先がすべて免税事業者、もしくは簡易課税事業者である場合です。

取引先が免税事業者の場合はインボイスが不要で、簡易課税事業者の場合はインボイス免除の特例を利用できます。すべての取引が農協特例に該当する場合もインボイスは不要です。

また、インボイス制度の事務処理が難しいと感じる場合も、免税事業者が向いているといえるでしょう。

課税事業者が向くケース

農家で課税事業者が向いているケースは、取引先が課税事業者である場合です。課税事業者は仕入税額控除をしたいため、インボイスを発行してくれる農家を優先する可能性があります。今までどおり取引継続したい場合は課税事業者が向いているでしょう。

また新規の取引先開拓などで免税事業者と差別化したい場合も、課税事業者が向いています。インボイス制度の事務処理ができることも重要です。

取引先との条件交渉

農家が免税事業者のままでいるか、課税事業者となるかは、取引先との条件交渉しだいという側面もあります。

免税事業者は取引先にインボイスを発行できないため、課税事業者の取引先としては消費税負担が増えるのが難点です。

農家が免税事業者のままでいた場合、既存の取引先が課税事業者になったときや、課税事業者の新規取引先が現れたときに、消費税負担を軽減するため、取引内容や価格の見直しを求められる可能性があります。

一方で課税事業者になることを選択すれば、免税事業者として免除されていた部分が、農家側の新たな負担になるのも事実です。

条件交渉を進めながら、最適な方法をしっかり検討していく必要があるでしょう。

まとめ

農家がインボイスを発行すべきかどうかは、取引先が課税事業者であるかどうか、各種の特例が適用されるかどうかにも関わります。取引先が課税事業者の場合、取引を不利にしないためには、農家も課税事業者となり、インボイス発行をする必要に迫られるかもしれません。

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